honey×1A


三成が男二人に公認を得た上で二股を掛けているという噂は、瞬く間に校内を駆け巡った。
同級生から「それじゃダメなんだ!」とか「So crazy!!」とか言われたりしたが、三人が耳を貸すことは無かった。当然と言えば当然かも知れないが、イケメン二人を手玉に取ったと三成は先輩も後輩も関係無くたくさんの女子から妬まれた。だが彼女は陰口や嫌がらせなどはつまらないこととしか思って無かったし、何より佐助と幸村が女子や外野達を牽制して守ってくれていた。そのために、直接三成が何かされるということは無かったのである。

そしてそのうちに、幸村達三人の関係に興味を持つ者も現れ出した。

「石田さーん!」

ある日の放課後のこと、部活動のために遅くなっている幸村と佐助を三成が教室で待っていると、挨拶もするかしないか分からない、顔見知り程度のクラスメイトの女子が二人、声をかけて来た。

「これあげる!」
「参考になるかと思って!」

彼女らは三成に茶色い紙袋を押し付けると、また明日ね、と手を振って去って行った。他人から何かもらうようなことはあっただろうかと考えながら、三成はそれの中を見てみた。中身は、一冊の漫画本。表紙にはカッコいい系と可愛い系のタイプが違う美青年が二人と、まつ毛がびっしり生えたぱっちりおめめの女の子が描かれていた。

「少女漫画?何故こんなものを…。」

三成は普段はあまり漫画は読まないが、退屈な待ち時間を過ごしていたので暇潰しには丁度いいかとそのコミックスを開いた。



「お嬢、お待たせ!」
「遅くなってしまい申し訳のうございます!」

佐助と幸村が教室に戻って来たのは、すっかり日が暮れて外が暗くなってからだった。あと20分ほどで最終下校のチャイムが鳴る。

「ご苦労だったな。」
「ありがと。あれ、お嬢も漫画なんて読むんだ?」

佐助は机の上に置いてある漫画を手に取り、戯れに開いてみた。

「えぇえっ!?」

すると彼は中を一目見て驚き、変な声を出した。それを覗き込んだ幸村も、「破廉恥でござるぅううう!!!」と叫ぶ。
三成が渡された漫画は、少女漫画とエロ漫画の中間みたいものだったのだ(規制を受けるほどではないが、子どもは見ちゃいけませんよ、みたいな)。

「三成殿、何故こんな本を!?」
「クラスメイトに渡されたものだ。」

先のコミックスの内容を簡潔に言えば『二人のイケメンの間で揺れるヒロインの恋の物語』なのだが、結局ヒロインの女の子はどちらかを選べず、男を二人とも恋人の位置に据えてしまうのだ。そうして彼女は、夜な夜な二人から可愛がられる……。そんな爛れた三角関係で物語は終わった。佐助達が開いたページは、そこまで過激な描写は無いものの、正にヒロインが男二人に同時に愛されているシーンであった。

「この漫画の内容が、私達に似ていると思われたのだろうな。」
「ちょっと、何でお嬢はそんなにしれっとしてるのさ…。」
「そ、そそそそそうでござるよ!某達はそんなこと…っ!」

困惑している男達を他所に三成は涼しい顔をしている。そして、その美しい顔でとんでもないことを言った。

「私達もいずれセックスをするのではないのか?」
「「!!」」

佐助も、幸村だって、年頃の男の子だ。そういうことに興味が無いわけでも、三成を少しもいやらしい目で見ていないわけも無い。だが、清廉なイメージのある彼女の口からそんな言葉が出て来るとは思わなかった。

「それなりに参考になったぞ。直接的な描写は無かったものの、私は上に下に前に後ろにと頑張らねばならないらしい。」
「嫌ーっ!!お嬢、もういいよ!もう何も言わないでぇ!!」
「わぁああああ何も聞こえないでござるうぅう!!!」

これ以上三成の形の良い唇から妙な言葉が飛び出して来てはたまらないと、佐助と幸村は大声を出して彼女の言葉を遮った。それに対して、三成の表情がわずかに曇る。

「……したく、無いのか?」
「「それは違う!!!」」

即答であった。




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