本命は、甘くないA


「ダメだ佐助!破廉恥だ!!告白などいかん!!」
「告白が破廉恥って何だよ…。破廉恥行為をするかどうかは、お嬢がOKしてくんなきゃ分かんないじゃん。」
「破廉恥行為!!?絶対ダメだ!!み、三成殿に、そんな…っ!そんなぁ!!!」

三成の破廉恥な姿を想像したのか、はたまた佐助と破廉恥なことをしている彼女を想像したのか。幸村は顔を赤くしたり青くしたりと忙しい。そしてゴムベラを持ったまま腕をぶんぶんと振り回したせいで、床に黄色い生地が飛び散った。

「大体、旦那には関係無いっしょ。そのチョコもお礼だって言ってたし、アンタにはそーゆー相手はいないんだろ?人の恋路を邪魔しないでよね〜。」

何て白々しい。だが、佐助もこればかりは譲れないのである。

「…い、やだ……。」
「ん?何?」
「嫌だ!!俺も三成殿が好きだ!!お前には渡さない!!!」

手にしていたボウルとゴムベラをどん!とテーブルに置き、幸村が大声で言った。器用にも足で雑巾を使い床を拭いていた佐助は、それを聞いてにぃっと口の端を釣り上げた。

「旦那良く言った!!
よし、明日は一緒にお嬢に告白しよ!どっちが勝っても恨みっこ無し、揃って玉砕もまた青春だしね!」

佐助は笑いながら、幸村の背中をばしばしと叩いた。

「佐助……。」
「まずは、ね。おいしいお菓子を作るとしましょっか。お次はこれ、ラズベリーを入れて下さーい。」
「おう!!」

二人は男の友情を深め、明日のため、大好きな女の子のために作業を再開した。



迎えた翌日。良く晴れ風も無く穏やかで、告白はもちろん、何をするにも良い日和であった。

「真田、猿飛、改まって、一体何の用だ?」

放課後、三成は幸村と佐助により体育館の裏に呼び出された。この銀髪の美しい少女の様子をそれとなく一日見張っていた幸村達であったが、友人の大谷吉継、雑賀孫市、長曾我部元親、毛利元就、それと教師の島津義弘に小さなチョコレートを渡しているのを見はしたものの、彼女の本命と思われる存在は確認できなかった。

「ちょっと話と…。」
「お渡ししたいものがありまして。」

用意は万全。昨日作ったフォンダンショコラとラズベリーマフィンは大成功だったし、可愛くラッピング済んでいる。佐助と幸村は一度息を吸い、特製のお菓子を差し出しながら同時に叫んだ。

好きだ、付き合って下さい、と。

三成は一瞬だけ驚いた顔をして、それからすぐにふっと笑った。

「私も貴様らにチョコを渡そうと思っていたんだ。」

二人から差し出されたプレゼントを受け取ると、三成は肩から下げたスクールバッグから二粒のチョコレートを出した。それのアルミ製の包み紙に『GODIVA』と書いてあったのを、目ざとい佐助は見逃さなかった。

「猿飛、口を開けろ。」
「えっとお嬢…返事は……。」
「良いから口を開けろ。」
「は、はい…。」

三成は佐助の口に一口サイズのトリュフを入れると、幸村にも口を開けるよう促した。

「真田はこっちだ。」

そして同じく、親鳥が雛鳥にするように幸村にもトリュフを食べさせた。

「このチョコを返事に代える。私の本命は、甘くないぞ。」

そう言うと三成はもう一度小さく笑って見せてから、踵を返して昇降口の方へと消えた。

立ち尽くしたまま三成を見送る幸村と佐助。彼らの口の中で溶けるチョコレートは、果たして甘いのか苦いのか……。




(三成からビターチョコレートをもらったのはどっち?)





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