プリンセス・トヨトミ(西軍×三成)


睦月のある夜、大坂城の大広間にて石田軍(三成から言わせれば豊臣軍)主催の新年会が催された。年が行こうとも来ようともまるっきりどうでもいい三成は、イベント事などにも全く興味が無かった。しかし親友の吉継に促され、各軍の将達と親睦を深めるべくこの宴を開催することとなったのだった。ちなみに招待されているのは西軍の武将達で、この面々と宴会場では無く戦場で邂逅したならば、間違い無く誰もが裸足で逃げ出すであろう、そんなそうそうたるメンバーが揃っていた。

「かーっ!!今宵の酒は、どれもこれも格別だぜぇ!」
「全くじゃ!こいで三成どんがお酌をしてくったら、言うこと無しなんじゃがの!」

四国と九州に棲む鬼、元親と義弘は、うまいと酒を褒めながらも決して味わっていないだろうと思われる速度で次々に容器を空けていた。

「こんなときくらい、飲まなきゃ損だよなっ!」
「…はて、ここに置いてあった芥子が見当たらぬが…。毛利、知らぬか?」
「それならばそこの穴熊めが手にしている酒の中に飛び込んで行くのを、先程見たぞ。」
「Σ〜〜〜っ!!?」

ここぞとばかりに酒を食らおうとしていた官兵衛は、哀れドSコンビの吉継と元就のオモチャになっていた。官兵衛の一年は、今年も不幸が続きそうだ。

「ふぉお、これは…これは美味な魚でござるな!これも、あれも!!全部美味いっ!!」
「コラ大将!他所の人の分まで食べちゃダメだって!」

広間の中央付近の席では、早くも一人前を平らげてしまった幸村を佐助が咎めていた。そのやりとりはまるで親子コントのようである。

かように随分と宴は盛り上がっているのだが、主催者である三成がこの場に見当たらない。佐助が「お嬢はまだかな」、と口に出したときに、手前の襖がすっと開いた。そして、現れた人物に一同は目を奪われ息を飲んだ。
その人物とは、石田三成。
自分の性別に頓着せず、むしろ女であることを疎ましく思っているくらいの西軍総大将が、豪奢な着物を纏って登場したのだ。男達がその美しさに釘付けになるのも当たり前だった。

「三成、お前さん……っ、女物…!?」

全員が惚けている中、一番最初に言葉を発したのは官兵衛で。皆一様にぽかんとしているのが気に入らないのか、三成はムッとした表情で口を開いた。

「私の意志で着たわけでは無い!!刑部がどうしても言うからだ!!
…貴様らが、喜ぶと言うから着たのに……揃いも揃って変な顔をして!似合わないなら言えばいい!可笑しいなら笑えばいいだろう!!」

男達が自分に見惚れていたとは気付かずに、三成は白地に青紫色の山茶花が描かれた(帯とも合わせて色合い的にあの美しき軍師を彷彿とさせるような)着物を強く握り締めながら怒鳴った。

「おかしいわけが無かろ、三成。ぬしのあまりの美しさに声も出なんだ。想像以上よ、流石は豊臣自慢の姫、ヒッヒッヒッ!」
「ぎょ…刑部っ!世辞などいらんっ!!」

吉継に『豊臣自慢の』と言われて、三成はぽっと顔を赤くした。その可愛らしさに、義弘も相好を崩して三成を褒めた。

「ほんっに美しかよ三成どん!死ぬ前にまた、良かもんが見れたど!」
「そうだよお嬢、超キレイ!大将なんて見惚れて固まっちゃってるし!」

佐助もそう言って、三成が現れてから微動だにしていない主の背中をポンと叩いた。それに我に返った幸村は、真っ赤な顔をして三成に駆け寄った。

「三成殿、そのお着物とっても似合っておりますぞ!その眩いばかりの美しさに、某呼吸も忘れてしまい申した!!ああ、その傾国のお姿……お近くで拝見するとより…。あ、あぁ……。」
「…貴様、酔っているな?」

ぽやぽやしている幸村を見て眉間にシワを寄せている三成を腕を、何者かがぐいと引っ張る。

「こんなキレーな姫様と飲めるたぁ、春からツイてるねぇ!石田、こっち来いよ!」

その犯人は元親で、彼はアルコールの助力もあってか随分と上機嫌な様子だ。先ほどから元就のみ何も言わなかったが、視線を辿ればその先にいるのは三成だった。口や表情には出さないが、艶やかな三成の姿に瞳をそらせないでいたのはこの男も同じであった。



「お嬢、ほらあ〜ん☆俺様特製の出汁巻き卵だよ〜。」
「佐助ばかり三成殿を独占してずるいぞ!三成殿、ささこちらに!」
「三成どん!次はオイの横ば来んしゃい!」
「石田、客人は等しくもてなすべきぞ。早く我にも酒を注げ。」
「貴様ら全員飲み過ぎだ!!」

極上のお姫様が加わり、宴は更に盛り上がっていた。雰囲気こそ楽しげなのだが、やっていることはいつもと同じ三成争奪戦。三成も三成で仲間達の反応が嬉しかったらしく、文句を言いつつも酔っ払い共の相手をしていた。
そんな中、元親が笑いながら三成に一つの質問をした。

「なぁ石田、アンタはどんな男が好みなんだ?」
「……は?」
「だーから、婿にすんならどんな男が良いかって聞いてんだよ。」
「ざ、戯れるな長曾我部っ!!」

婿だなど!と、三成は羞恥でか怒りでか分からぬが顔を赤くした。

「まぁまぁお嬢。ほんと、酔っ払いの戯れ言だと思って付き合ってよ。この中でなら、誰が一番好み?」

元親に合わせて口を開いた佐助。質問の内容が少々変わったが、『この中で』という言葉に男達の目の色が変わった。

「忍、もっとはっきり言え。石田よ。貴様が子を孕むならば誰の種が良いか。選べ。」

そして更に元就が変化球をストレートに放り直す。破廉恥ぃいい!!と叫ぶ幸村を吉継が黙らせると、皆で三成を見詰めた。それにはさしもの三成も怯んでしまう。

「じゃあ、こうしよ!男はみんな目をつぶって人差し指を出して、お嬢は該当する人の指を触るの。これなら選びやすいでしょ?」
「選ぶ方と選ばれる方しか分からないってわけか。おもしろいな。」
「なるほど、これならぬしも恥ずかしくはなかろ。」

佐助の合コンなんだか学級会なんだか遠足のバスの中なんだか分からない低レベルな案に、官兵衛や吉継が次々頷いた。三成に逃げ場は無くなってしまったようだ。「いいか、お前ら絶対に目ぇ開けんなよ!」「三成どん、誰かを選んだら合図を頼むど!」と男七人はもうノリノリで指を差し出している。

(この、酔っ払いが…!!)

どうするかと考えていると、ふと三成にイタズラ心が芽生えた。

ーちょん、ちょん、ちょん、ちょん、ちょん、ちょん、ちょん。

「…もういいぞ、選んだ。」
「「「「「「「!!」」」」」」」

三成は、全員の指に触れてやったのだ。
目を開けた七人は、みんな己が選ばれたと思い目を丸くしたり赤面したりドヤ顔をしたりしていた。その様子が愉快で、三成は意味深に、そして妖艶に笑って見せた。それを見た幸村が盛大に鼻血を吹き、宴会はお開きになったのだった。



「ふん、気が向いたら安芸に連れ帰ってやるわ。」
「石田を嫁にもらったら、野郎共も喜ぶだろうな!」
「一体何の罠だ!?しかしこの罠、あえてハマってやろうじゃないか!」
「この老いぼれ、三成どんのためにもまだまだ引退はできんとね!」
「幸福が我に訪れると…?有り得ぬ……。」
「三成殿に相応しい男になるべく!もっと励まねばぁああ!!」
「…夜、また会いに行っていいってことかな?」

上から、元就、元親、官兵衛、義弘、吉継、幸村、佐助。
西軍が逆大奥と化すまで秒読み状態であるのに、三成だけが気付かぬのであった。

この様子を人づてに聞いた家康が、「西軍楽しそう!羨ましい!ワシも三成の側室になりたい!!」と喚いたらしいが、まぁ無理な話である。




おしまい☆

- 28 -


[*前] | [次#]
ページ:






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -