She is fox!A


弁当を持って二人が向かった先は裏庭。あまり人の手が入っていないので、そこかしこに雑草が生えているしコンクリートやブロックの屑などの廃材が積んであったりして少々荒れているところなのだが、日当たりが良く日陰もあるので居心地はそう悪いものでは無かった。幸村と三成は、そんな穴場でいつも昼食を取っているのだった(大体、いるのは彼らと野良猫くらいのものだ)。

「ささ、どうぞ。」
「…いらないといつも言っているのに。」
「いいのでござる、某がしたいのですから。」

二人は、世話をされなくなって久しい花壇の縁に並んで座った。体を冷やさないようにと、幸村はブレザーを脱いで、その上に三成を座らせていた。

毎日彼女を姫のように扱い、一見すると幸村が三成にベタ惚れしているように思える。『ベタ惚れ』…自体は間違ってはいないのだが、告白(?)をしたのはなんと三成の方だった。


〜回想始め〜

「真田っ!!貴様のいやらしい視線には気付いているぞ!いい加減鬱陶しいし気持ちが悪い!し、仕方が無いから……どうしてもと言うのなら、付き合ってやらんことも無い!!」

放課後幸村を呼び出し、真っ赤な顔をしてツンデレ全開の言葉を投げ付けた三成。幸村も、いつも見ていたことがバレていて同じく顔を真っ赤にした。純情ボーイである幸村はしばらくは何も言えずに口をぱくぱくさせているだけだったが、想いを寄せている相手のことは良く分かっているつもりであった。これは三成に好きだと言われているようなもの。彼女の精一杯の告白であると理解した幸村は、真心を込めて返事をせねばならないと思った。

「そ、某も三成殿が好きでござる!どうしても付き合って欲しい!!…だから、是非!某と付き合って下され!!」

〜回想終わり〜


そんな出来事があったのが一年生の時の秋。今から、ちょうど一年前のことだ。そのときはクラスも一緒だったのだが、今年は別々になってしまった。まぁ、教室間を隔てる壁などは、二人の間には無いに等しいのであるが。

三成にぴったりとくっついて座り、幸村は上機嫌に菓子パンにかじりついた。立ち上がれば二人には10cmの身長差があるが、座るとその差は数cm程度になる。とどのつまり足の長さが相当に違うわけで、それはそれで悲しい事実なのだが……彼女と目線が近くなるのが嬉しくて、幸村は三成と並んで座るのが大好きだった。だが三成は、幸村のくりっとした大きな瞳が自分を見上げる様が好きで、逆にこの身長差を好ましくさえ思っていた。休日私服で会うときなどは、ハイヒールを履いてこれでもかと彼を見下ろしている始末だった。
蛇足になるが、三成はよく幸村にキスをせがむ(と言うか、半分命令をする)。目を閉じて顔を耳まで真っ赤にし、ぷるぷると震えながらうんと背伸びをして唇を寄せてくる彼の様子は……ドS女王様の大のお気に入りなのであった。

しかし、幸村が己の身長のことを気にしているのは三成も知っているから、むやみに揶揄することは無かった。



「お腹いっぱいでござる!」

メロンパンとメープルロール、コロッケパンと牛乳をぺろりと平らげた幸村。満腹になり眠たくなったのか、彼は同じく弁当を食べ終えた三成の細い肩にもたれかかった。三成はその行為自体を咎めたりはしなかったが、幸村の口元にパンのクズが付いているのを見付けて眉を顰めた。

「食べこぼしが付いているぞ。子どもか。」

嫌そうな顔をしながらもそれを取ってやっているあたり、三成も相当に幸村に惚れ込んでいるようだった。すみませぬ、と謝る幸村の顔は、炭酸の抜け切ったコーラのように甘ったるかった。

砂糖菓子みたいに甘い瞳をし、ふにゃふにゃと締まりの無い表情をしながら自分を見上げてくる幸村を見て、三成はこの男が何をしたいのかを悟った。しかし彼女は、恋人の思考を読んだとてすんなりと思い通りにさせてやるような女では無い。三成は紺色のブレザーのポケットを探りリップクリームを取り出すと、ストロベリーの匂いがするそれを己の唇に塗った。
それから、

「そんなに荒れた唇とはキスしたくない。今日はこれで我慢しろ。」

と言って、手にしたリップクリームで幸村の唇をなぞった。

「み、みみみ三成殿っ!!?」

茹でダコみたいになって狼狽える彼氏を尻目に、彼女は口元をつり上げて妖艶に笑った。

……もしこの周辺に誰かがいたならば、広がる苺の甘酸っぱい香りとそれの発生源である二人の様子に、胸焼けを起こして苦しんでいたことであろう。




おしまい☆



「She is fox」…彼女はとても美人だ、という意味らしいです。これは三成のための言葉だと信じて、疑う余地はありません。

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