めろめろな生活A


 「何やら三成が悩んでいたからな、救済に来たんだ。」
「悩んでいらしたと…?」
 それを聞いて、幸村は三成を振り返った。
「某にも言えないようなお悩みが……?」
 心配そうに自らを見詰める幸村には目を合わさず、三成は自分の胸に両手を置いて俯いていた。
「…き、貴様が……胸が大きい女の方が好みだと言うから…っ!」
 三成の肩がぷるぷると震えている。
「私などでは物足りないのだろう!?この好色男っ!貴様なんかもう知らん!!」
「三成殿、突然何を申されますか!」
 幸村は三成の両肩をがしっと掴んだ。三成の瞳には、うっすらと涙の幕が張っていた。
「さっき、猿飛と話していたではないか!私はこの耳で聞いた!!」
「そ、それは誤解でござる!!某は…っ!」
「うるさい、うるさいうるさい!!言い訳など誰が聞いてやるか!!」
 突然の修羅場に、吉継、家康、佐助の三人はぽかんである。彼らは最早それの観客になるしかなかった。
「本当に違うのでございます三成殿!某は、『男ならばお館様のように厚くて逞しい胸板の方が良い』、と話していただけでござる!!」
「そんで、俺様は『ほどほどが良い』って言ったの。筋肉ダルマもヤでしょ?」
 必死で弁明する幸村に佐助も続く。それを聞いて少し落ち着いたのか、三成は口を噤んでぱちぱちと二、三度瞬きをした。その拍子に彼女の瞳から涙が零れた。
「ああ、泣かないで下され三成殿!そなたの涙を見るのが、某は何よりも辛い……。」
 幸村は指先で三成の涙をそっと拭った。
「先ほどの言葉に、嘘偽りはないな…?」
 涙目で己を見詰める三成に、幸村は大きく頷いた。
「某は、三成殿の胸が大好きでござる。慎ましやかで可愛らしいあの膨らみ、そして触れればふんわりと柔らかくてまろまろで……。」
「さ、真田…っ!もう分かった!黙れ!!」
 幸村は、真っ赤な顔をする三成を抱き締めた。
「黙りませぬ。今後誤解のないようしっかりと言っておかねば。某はもう、そなたでなくては欲情しませぬ。心も身体も、三成殿がいい…。」
「真田……。」
 三成も、幸村の背中におずおずと腕を回して彼に抱きついた。
「…私も貴様の胸板が好きだ。この腕も、好きだ。今だって十分に頼もしいと思っている。これ以上無理に鍛える必要はないぞ。」
 修羅場が一転し、げろげろに甘い雰囲気を醸し出し抱き合う二人。家康達のことなどとっくに眼中にないと思われる。

 「何と嬉しいことを言って下さる。」
 突然、幸村の目の色が変わった。
「…俺は、今すぐそなたが欲しい……。」
「そ、そんな、まだ昼前だぞ!?こんなに明るいうちから馬鹿を言うな…っ!」
 耳元で低く囁かれ三成はゾクッとして肩を竦めた。幸村の言葉に対し拒絶を口にするものの本気で嫌がってはいない様子だった。
「三成殿の全部が見えて好都合。俺の全部も、そなたに見て頂きたい。」
「真田……ぅあっ!?降ろせ!!」
「お断り致す。俺の気持ちを疑った罰でござる。」
 幸村は、三成を横抱きにしてどこかへと行ってしまった。残された三人は無言で彼らを見送った。否、それしかできなかったのだ。

 「…なぁ、そこな忍。」
「え?俺様?」
 家康は、幸村達が消えて行った方向をじっと見詰めたまま佐助に声を掛けた。
「三成と真田は、いつもああなのか?」
「うん、まぁ…大体はあんな感じ?」
 佐助はわざと頭を掻きながら答えた。その返答に、家康の頬を一筋の涙が流れて行ったのだった。
 自室で茶番を繰り広げられていた一番の被害者・吉継はと言えば、いつの間にやら文机に向かって三成から受け取った書状を確認していた。既に例のバカップルにも家康にも興味がないらしい。この順応力は、三成の保護者を務める上で貴重なスキルであった。
「ふむ、首尾は上々か。毛利めなかなかやりおるな…。」



 幸村と三成は、夕餉の時間になっても姿を現さなかった。だが、彼らを訪ねるなど野暮な真似をする者は一人もいなかったのだった。




   おしまい!




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