酒宴、酒乱!A


 「そう言えば長曽我部。」
「ん?」
 今度の矛先は俺か、と厄介だと思う気持ちと期待とが半々で元親は三成に向き直った。
「貴様の体躯……秀吉様とは比べるべくもないがなかなか悪くはない体つきだな…。」
 三成は戦場さながらの素早い動きで元親との距離を詰め、彼の懐に潜り込んだ。そして例に漏れず、ハグ。
「ああ…秀吉様……。」
 元親の逞しい胸板に顔を埋めて、恍惚としている三成。
「おい石田、俺はアンタの主じゃねぇぜ?人様の身体で妄想して、悦に入んなよ。」
 元親は、三成の顎を取りこちらを向かせた。下から己を見上げる三成の表情は、いつもより幼く見えて愛らしかった。何だか堪らなくなった元親は、三成が「喧しい!」と唇を寄せるより早く、彼女に口付けた。
「ん、ぅ…っ。」
 元親の舌が三成の口腔内を荒らす。だが三成は抵抗の色を見せない。ようやく解放されると、三成はんく、と口内に溜まった唾液を嚥下した。
「飲み過ぎだ、馬鹿者!」
 口許を拭いながら、きついアルコールの味に三成が顔をしかめたが、元親は気にも留めず三成を抱き締めた。
「……アンタ、鬼の子を孕む気はねぇか?」
 優しくしてやるから。
「?」
 元親の手が不穏な動きを始めた頃、二人は引き離された。
「は、ははは破廉恥極まりないでござるーっ!!」
 …一人の純朴な青年の手によって。

 「三成殿!いくら総大将といえどもそなたは年頃の娘!安易にそのような振る舞いはしてはなりませぬ!!」
 顔を真っ赤にしながら怒鳴りつける幸村。三成はぱちくりと数回瞬きをして、彼を見上げた。そんな顔をしたって絆されるものかと幸村は彼女を睨んだ。だが、酔っているせいで紅潮した頬に潤んだ瞳。着物の裾から覗く白い足、動き回ったせいで乱れた袷に緩んだサラシ……。三成からは女の色っぽさが溢れ出ていて、思わず目を逸らしてしまった。
「と、とにかく、崩れたお召し物を直して下され…っ!」
「真田。」
 幸村が余所を向いてうちに、三成は彼の目の前へと接近する。
「ふふふ、貴様もしたかったのか?」
 にぃ、と弧を描く彼女の唇。その妖しげな笑みを確認した次の瞬間には、視界は三成の美しい顔のどアップになった。ぺろりと唇を舐められ、幸村は情けなくも力が抜けてしまう。
「真田、可愛い…。」
 そしてそのまま、三成は彼を押し倒し口付けた。首に腕を回して絡み付くように幸村を拘束する三成(官能的な二人の様子を、黙って見ている吉継達の姿は少々滑稽であった)。初めての他人の舌の感触に、幸村は目を回しそうだった。
(三成殿の匂い…っ、味…っ!)
 仄かに感じる、胸のぬくもりと柔さ。純情ボーイの幸村は、震えるだけで何もできなかった。
 眼前の若虎をしばし貪った後、三成は彼の身体の上で眠ってしまったのだった。



 彼女は、親友兼保護者の吉継に抱えられ自室へと運ばれた。戻って来た吉継は、やけにげっそりした表情を浮かべていた。
「お嬢にお酒飲ませちゃダメだってのが、良く分かったよ……。」
「ああ、身が保たねぇ……。」
「破廉恥破廉恥破廉恥破廉恥破廉恥っ!!」
「不幸中の幸いか、三成は家康だけにはあのような真似はしなんだ。それと、今宵のことは翌朝には覚えておらぬゆえ、安心せい。」
 吉継、幸村、佐助、元親の四人は、微妙な雰囲気の中解散したのであった。





 「今後石田三成には酒を飲ませない」は満場一致の意見だった。

 …しかし、男達は「如何にして二人きりのときに三成に酒を飲ませるか」に以後心を砕くのだった。




   おしまい☆




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