某の彼女はB


 当てもなく走り、幸村が辿り着いたのは噴水広場。今朝、彼女と待ち合わせた場所だった。
「はぁ……。」
 幸村は、深い溜め息を吐きながら噴水の縁へと腰を下ろした。
(最悪でござる……。)
 激しい自己嫌悪に陥りがっくりとうなだれる。と、視界の端に見覚えのあるコーラルピンクが見えた。これは、先ほど三成が購入した下着。幸村は、この紙袋を持ったまま逃走して来てしまったらしい。
「さ、最悪でござるうぅ〜!!!」
 頭を抱えて喚いている幸村に、背後から一人の少女が声を掛けた。数時間前のデジャヴュ。
「真田!」
 カッ!
 踵を鳴らしながら現れたのは三成だった。
「私の下着を返せ!!」
「わーっ!?」
 『下着を返せ』という言葉に付近にいた人々が一斉に二人の方を見た。憤る少女に慌てる少年。幸村は、もれなく軽蔑の眼差しを向けられたのだった。
「勘違いするなよ!私は貴様を追いかけて来た訳ではない!貴様が持ち去った下着を取り返しに来ただけだ!!」
 彼は何も言っていないのに何故か弁解じみたことを言う三成。彼女のセリフに、周囲の人間はますます厳しい視線を幸村に送ったのだった。
「……だがな。」
 幸村の手から例の袋をひったくると、三成は彼の隣りに腰掛けた。
「ついでだ、貴様に言いたいことを全て言ってから帰る。」
「三成殿……。」
 幸村は、何を言われても甘んじて受けようと姿勢を正した。
「長曽我部に声を掛けられたときに、貴様は咄嗟に手を離した。私との仲を知られたくないのだと思って、私はああ言ったまでだったが…。貴様は気分を悪くしたようだな。この私を置いて行くとはいい度胸だ。」
「…あ、あれは……そのぅ〜……。」
 歯切れの悪い幸村を攻めるように、三成は更に続ける。
「朝から、私なりに努力した。このスカートだって買ったばかりだ。この靴だって…貴様は赤色が好きだというからせっかく……。なのに貴様は何も言わない!貴様に褒められねば意味などない!もう赤など金輪際身に付けるか!」
 バキッ!
「ぐわっ!!」
「貴様となんて二度と出掛けん!!」
 三成から飛んで来たのは、平手ではなくまさかの拳。幸村は衝撃で縁から落ちてコンクリートの地面に尻餅をついた。



 「待って下され三成殿!」
 ハイヒールなのに物凄い勢いで走って行く三成に、幸村は必死で追いすがる。彼女も今日のデートを楽しみにしていたのだ。少しでも可愛く思われたいと頑張っていた健気な気持ちに気付けなかった。そのことを心底悔いて、幸村は手を伸ばした。
「捕まえましたぞ!」
「離せ!触るな!死ね!殺すぞ!斬滅だ!」
 秀麗な見た目からは想像ができないほど物騒な言葉が三成の口から次々と飛び出す。だが幸村は怯まない。
「某は!!そなたを誰よりも美しいと思っております!!」
「黙れ!見え透いた世辞を!!」
 三成は暴れたが、幸村は手を離さない。
「この白いブラウス、シンプルですが清楚な感じが三成殿にとても似合っております!惜しみ無く脚線美を見せつける靴下も、セ…セクシーでございます!そして、ふわふわしたそのスカートが風に揺れる度!某は心臓が破裂しそうな思いでござるっ!!」
 幸村は、少ないボキャブラリーを駆使し、顔を真っ赤にしながら彼女の服装を褒めた。
「それに何より、この真紅の靴は、三成殿のためだけに誂えられたのかと思うほど……とっても、とっても似合っておられます!
加えて申し上げれば、某は三成殿ならば学校指定のジャージを召されていても可憐だと…」
「さ、真田もうやめろ!」
 往来で大声で褒め倒されては、流石の三成も羞恥に耐え切れず幸村を止めた。
「…分かった。私も先の言葉を撤回しよう。貴様がそこまで気に入ったのなら、またこの靴を履いて……一緒に出掛けてやらんことも、ない…。」
 三成は、日傘で顔を隠しながら恥ずかしそうにごにょごにょと言う。その仕草が非常に可愛らしくて、幸村は猛烈に彼女を抱き締めたくなったが、また殴られるのは勘弁なのでどうにかその衝動を抑えた。
「ふん、帰るぞ。」
 はい!と元気良く返事をしながら、幸村は三成の手を掴んだ。今度こそ離さないと言わんばかりにしっかりと握ると、ほんの少しだけ、彼女も手を握り返してくれた。



 「…家に寄って行け。茶くらいは出す。」
「三成殿の家に!?そ、そんな、悪いでござる!」
「拒否など認めない。」
「いや、それは…そんな〜……。」
 何を想像しているのか、顔を赤くしたり青くしたりしている幸村。そんな彼を見て三成が意地の悪い笑みを浮かべた。
「刑部…いや、私の兄の淹れる紅茶は絶品でな。貴様にもそれを味わわせてやりたいだけで、残念ながら他意などないぞ。」
「そ、某っ!そんな破廉恥なことは考えておりませぬ!」
「どうだかな。」
「三成殿〜!」
 彼女の方がかっこいいなんてちょっと悔しいけれど、三成に敵う気などしないから仕方がなかった。楽しそうに笑っている三成の横顔を眺めながら、幸村もにっこりと笑った。

 初めてのデートは成功とは言えなかったが、幸村と三成は満ち足りた気持ちで帰路へと就いたのだった。




 某の彼女はとびきりのイイ女!




    おわり☆



- 21 -


[*前] | [次#]
ページ:






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -