某の彼女はA


 それから幸村と三成は、駅前の大きなデパートへと移動した。
「何か欲しい物があるとおっしゃってましたな。何を買うのでございますか?」
「下着だ。」
「は、破廉恥っ!」
「何故だ?下着を身に付けない方が余計におかしいと思うが?」
「破廉恥破廉恥ー!」
 何だか奇妙なやりとりをしつつ、ランジェリーの専門店へとやって来た二人。
「そ、そそそそそ某はこちらで待っております!ゆ、ゆっくり選んで来て下され!」
 幸村は店内へと踏み込めるはずもなく、店の外で待っているからと三成の背中を押した。しかしここはレディスファッションのフロア。通路に立っていても、目に入って来るものは全て女性用の服飾品だ。マネキンが着ている丈の短過ぎるのワンピースに、スタッフが着用している胸元ぎりぎりのカットソー、ただ陳列しているだけのショートパンツまでもが幸村にとっては目を覆いたくなるほどだった。「破廉恥の宝庫でござる!」と清純な少年は顔を真っ赤にして俯いていた。
(ふむ…このリボンの物も捨て難いが……。やはり素材で選ぶならコットン100%が良い…。)
 彼氏の静かな苦悩など露知らず、三成は呑気に下着を吟味していたのだった。

 「待たせたな。」
「い、いえ…。」
 コーラルピンクの可愛いらしい紙袋を持って、彼女がランジェリーショップから出て来た。それを見て、幸村は佐助の助言を思い出した。
(そうだ、紳士的に振る舞わねば!)
「三成殿、お荷物お持ち致します!」
「いや、いらん。」
 大して大きくもない袋なので三成は当然その申し出を断った。だが、
「日傘や鞄もありますから邪魔でござろう。お持ちします!」
 と言って幸村は引かない。更にそれを断ると、どうか持たせて下されえぇ!!と通路の真ん中で土下座を始めやがったので三成は仕方なくピンク色の袋を彼に渡した。
(紳士アピール完了でござる!)
 達成感に溢れ満足そうな幸村をよそに、三成は眉間にシワを寄せ険しい顔をしていた。
(下着だぞそれ……。)



 連休中ということもあってか、どこの階のどこのフロアも結構な賑わいを見せていた。人込みの中ではぐれないように、と幸村が手を伸ばすより早く、三成が彼の手を掴んだ。
「迷子になるなよ。」
 男らしく格好付けるつもりだったが、完全に三成のペースだ。しかし、握ったその手は少しだけ冷たく、強く握れば折れてしまうのではないかというほど華奢だった。その感触に、幸村の胸はきゅんと高鳴る。もう、彼女が眩しくてしょうがなかった。

 「真田!石田!」
 突然声を掛けられ、振り向いた先にはクラスメイトの元親と、野郎ども(元親の子分?)が数人いた。幸村は、繋いだばかりの手を咄嗟に離してしまった。しまった!とすぐに後悔したが、もう遅かった。
「長曽我部。」
 三成が元親達の方を向く。
「何だよお前らデートかぁ?いつの間に付き合ってたんだよ!」
「「「ヒューヒュー!」」」
 元親達の冷やかしに対し、三成はふん、と鼻を鳴らして至極面倒臭そうに答えた。
「そんな軟弱なものではない。この者は私の舎弟だ。」
「舎弟!?随分だなぁ石田!」
「三成さんの舎弟にならなりたいっス!」
「確かにー!」
 元親と野郎どもは大爆笑。三成の半歩後ろで、幸村だけが衝撃を受けていた。そして、彼は更なるショックを受ける。
「にしてもアンタ、ミニスカなんて穿くんだな。制服はカッチリ膝丈なのによ。似合ってんぜ!
…お?なんか雰囲気も違うと思ったら、今日は化粧してんのか。別嬪さんが割り増しだな!」
「「「あらあら姉さんおキレイね!」」」
「!!」
 佐助からのアドバイス、「まず髪型や服装を褒める」ということを自分はすっかり失念していたが、元親はそれをすんなりやってのけた。そして、三成が化粧をしていたことに気付けなかった。
(……俺の、彼女なのに。)
 三成を見れば、顔を赤くしながら「やめろ!」とか「うるさい!」とか怒鳴っているが、満更でもなさそうな様子だった。また元親は上背があり、ヒールを履いた三成と並んでもカップルとして理想的な身長差があった。
(俺より、長曽我部殿の方が三成殿にお似合いかも知れぬ…。)
 そう考えるとこの場に居たくなくなって、幸村は床を蹴って走り出していた。
「某、用事を思い出しました!失礼致します!」



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