独眼竜の受難?A


 「政宗殿!?」
「誰だ!?」
 てっきり、石田三成が真田幸村に跨がってでもいるのだろうと思っていたのだが、そこにいたのは「石田三成に膝枕で耳掻きをしてもらっている真田幸村」だった。勿論二人とも着物をきちんと着ている。
「耳…掻き…?」
 危ないから動くなとか、取れた耳垢が大きかったとか、こんなに汚れが溜まるまで放っておくなとか、どうやら三成はそういうことを言っていたらしい。そして幸村は、三成の耳掻きテクに素直に「気持ちいい」、とうっとりしていたようだ。
「お、お前ら紛らわしいんだよっ!!」
「と言うか俺達に見られても動じないのか…。」
 仕上げ、とばかりに耳元に息を吹き掛けられ、幸村はうぅっ、と身悶えた。
「真田、こいつらは貴様の知り合いか?」
「うーん?知り合い、と言いますか…。まかり間違っても友人ではありませぬ。」
「……エラい言い方してくれるじゃねぇか真田ぁ…。」
 「いや小田原であなたとも会ってます」とは口が裂けても言えず、政宗は奥歯をぎりぎりと噛み締めた。だが幸村と三成は、そんな様子を気にも留めず耳掻きを続ける。
「次は反対だ。」
「はいでござる!」
 今度は三成の方を向いて寝転がる幸村。戯れに彼女の腰に手を回したりして、叱られていた。
「今日も三成殿からはいい香りがしますなぁ。でも、昨日と違う匂い…?とお見受けしますが。」
「…貴様は犬だけあって鼻がいいな。今朝は、新しく刑部がくれた香を薫いてみた。気に入らないか?」
「いえいえ!とても良き香りにございます。ずっとこうして、嗅いでいたいほど…。」
 そう言うと幸村は、三成の腹の辺りにぐりぐりと顔を押しつけた。
「ば、馬鹿者!!」

 二人のやりとりを見て呆気に取られていた政宗だったが、小十郎がごほんと咳払いをし、我に返った。
「『武田の若き虎が凶王に懐柔されてる』ってのは本当だったらしいな。二人揃って軟弱なこった。凶王様がpetと戯れてばかりたぁ、あの世であの大猿も、いけ好かねぇ軍師も嘆いてるんじゃねぇか?」
 政宗がそう言った途端、何かが物凄い勢いで彼の頬をかすめて行った。今のは何だ?と振り返ると、そこには壁に垂直に突き刺さった耳掻きが。それは、三成が投げ付けた物に他ならなかった。
 気付けば、三成は凄まじい障気を放って恐惶状態になっていて、彼女の側からは幸村の姿が消えていた。
「三成殿を愚弄するとは!伊達政宗許さずまじ!!」
 いつの間に移動したのか、彼は政宗の背後にいたのだった。
「Ha!ちょうどいい!二人まとめて料理してやるよ!Let's pa…ぐふぉあああ!!?」
 決め台詞を言っている最中に、幸村は二槍の柄で思い切り政宗の脇腹を突いた。
「最後まで言わせろ!…つか、テメ、槍の使い方違う…っ!あ痛!!」
 ガスガスと槍の柄で突っつき続ける幸村。「これは武田の虎ではない、私の犬だぁあああ!!」と叫ぶ(恐惶状態の)三成の攻撃をも受け、とうとう政宗は動かなくなった。もう面倒臭くなったのか、小十郎は無表情のままずっとそれを座視するのみだった。

 それから、
「石田、真田、邪魔したな…。」
 『ただのしかばね』と化した主を引きずって、小十郎は大坂城を後にした。「だから言ったでしょ」と、佐助は慰めの代わりに二人を城門の前まで見送った。



 「一体何の用だったんだ?さっきの連中は…。」
「さぁ、分かりませぬ。」
 突然の来客も帰り静かになった部屋で、二人は耳掻きタイムの続きをしていた。
「まぁ、そんな些事はどうでもいい。それより真田、さっきはよく働いてくれたな。…特別に、今夜は……よしよししてやろう。」
「夜のよしよしでござるか!?嬉しゅうございます!」
「だから動くなと!」
 蛇足になるが説明すると、“夜のよしよし”とは、褥の中で体中の色んなところを三成がよしよししてくれるという幸村へのご褒美だ。大体、それから破廉恥な事態に発展してしまう大層破廉恥なご褒美なのである。



 「飼い慣らされても牙が抜けた訳じゃなかったみてぇだな、真田幸村。次会ったら飼い主ごとブッ潰してやるぜ!!」
 あれから目を覚ました政宗は、絶対に幸村達には聞こえないであろうが律儀に捨て台詞を吐き、奥州へと帰って行ったのだった。
 …彼が密かに「戦場で対峙したときもあんな感じだったらどうしよう」と不安がっていることは、小十郎でさえも知る由もなかった。




    The end!!



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