栗と親友と(家三?+吉継)


 澄み切った空に心地良い風。秋晴れの爽やかな陽気に珍しく吉継が気分を良くし、大坂城の庭を散歩していた。とは言え己の足で歩き回っている訳ではなく、輿に乗ってふよふよと浮かんでいるだけだったが。


 吉継に特別草木を愛でる趣味は無かったが、何の気無しに庭木を見遣ると、秋らしく赤や黄色に色付いて見えるものがあった。
「しかし、紅葉狩りにはちと早い、か…。」


 「刑部。」
 そこへ、吉継の親友である三成がやって来た。彼は布でできた焦げ茶色の袋を手にしていた。
「おお三成か。何ぞ、われに用か?」
「これをお前にやる。」
 そう言うと、先ほどの袋を吉継に差し出した。
「われにか?さてさて何であろ…。」
 袋を受け取った吉継は、早速中身を確認した。
「栗か?」
「焼き栗だ。先刻、町で買って来た。」
 袋に入った栗は、まだ温かくほんのり湯気が出ていた。
「これはうまそうよ、栗など今年は初にお目にかかる。」
「貸せ、剥いてやる。」
 三成は懐から小刀を取り出すと、器用に栗の皮を剥いた。
「三成手ずからとは有り難い。」
 口を覆う布を外すと、心なしか嬉しそうに栗を頬張る吉継。そのときに病により爛れた皮膚が見えたが、そんなものを気にする者は此処にはいなかった。
「これはうまいな…。」
「そうか。初物は食えば寿命が伸びると言うので薬のようなつもりで買って来たが、不味く無いならその方がいい。」
 言いながら、三成はもう一つ栗を剥いた。焼き栗の購入理由を聞いた吉継は、思わず笑みを深くした。
「…そのためにこれを買って来てくれたのか。ぬしは愛い奴よの、われは幸せ者よ。嬉しい、ウレシイ…。」
「わ、私は別に…お前が秀吉様の天下を支えるのに不可欠な力だと思っているからで……。」
「分かっておる。分かっておるとも。
なれば三成、ぬしも食え。」
「…いや、私はいらん。」
 笑顔のまま栗を咀嚼する吉継に、三成も知らず表情を緩めるのであった。




 しかし、
「おーい三成!!」
 突如聞こえた大声の主に、三成の柔らかい雰囲気は瞬時に引っ込んだのだった。



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