赤い糸、固結びしちゃおうA


その、翌日のこと。

「佐吉殿〜っ!!」

佐吉が登園するや否や弁丸が走ってやって来た。ここまでは昨日の朝とまるで一緒だが、一つだけ決定的に違うことがあった。

「どうした真田、誰かにいじめられたのか!?」

いつも笑顔で迎えてくれる幸村が、大粒の涙をこぼして泣いているのだ。それには、さすがの三成も慌ててしまう。

「ふ、ふぇ…っ、梵天丸殿がぁ……。」
「誰だそいつは!!何組の奴だ!?」

弁丸の言う梵天丸とは、隣りのゆり組の園児だ。彼は負けん気の強い男の子で、何故だか弁丸をライバル視していてやたらに突っかかってくるのであった。運動会では佐吉と徒競走で争ったこともあるから知らないはずは無いのだが、佐吉の記憶からそのことはすっかりと抜け落ちているらしい。
蛇足になるが言っておくと、かけっこの結果は佐吉の圧勝であった。

「お…おのこ同士は……うぅっ、結婚できないと…っ!!」

佐吉殿と結婚すると言ったら、梵天丸殿に無理だと笑われた、と弁丸は嗚咽をもらしながら言った。

「某は…佐吉殿が、い、一番に、大好きなのにぃ……。ぅ、うわぁあああんっ!」

弁丸を宥めようと必死だった佐吉だったが、大泣きする弁丸に釣られて、とうとう彼まで泣き出してしまった。朝から大きな泣き声がメルヘンチックな内装の教室に響き、保護者も園児も彼らの方に視線をやる。

「真田も石田も、泣くんじゃない。」

抱き合ってわんわん泣いている二人に声をかけたのは、孫市だ。弁丸達の会話を聞いていたらしい彼女は、栗色と銀色をまとめて抱き上げた。スタイル抜群で涼しい目元が印象的な美女は、存外にパワフルなのであった。

「まごいち……。」
「こら石田。『先生』を付けろ。
二人とも男だろう?泣くのはよせ。」

孫市のこのセリフは泣き止ませるどころか逆効果で、「二人ともおのこだから泣いているのでござるぅ!!」と弁丸は彼女の鼓膜を破らん勢いで叫んだ。よりにもよって、それが耳元だったのだからたまらない。
頭をキンキンさせながら、孫市は一度佐吉と弁丸を降ろすと彼らと目線を合わすためにしゃがんだ。

「良く聞けカラスども。
カナダでは同性間結婚が認められている。同性同士のカップルを容認する動きは世界各地で見られるが、居住条件を抜きに結婚を認めるのは恐らくその国の他に無いだろう。」

弁丸も佐吉も難しい言葉を理解することはできなかったが、先生が自分達を助けるようなことを言っているのは分かった。

「佐吉殿とけっきょん…できる…?」
「ああ。大人になったら、二人でカナダへ行ってこい。」

孫市が不敵に笑って見せると、二人の涙はようやっと引っ込んだ。

「やったでござる!!佐吉殿と結婚!素敵なドレスとタクシー!!」
「タクシーでは無くタキシードだと何度言えば!」

(やれやれ、今泣いたカラスが何とやら…だな。)

二人にいつもの調子が戻ったのを確認すると、孫市は飾り気の無い黒いエプロンを翻し積み木をして遊んでいる幼児の方へと行ってしまった。どうやらそちらでご指名のようだ。彼女は多少粗野なところがあれど、皆に慕われる有能な保育士なのである。
孫市が去ったあと、

(真田の求婚に頷いた覚えは無いのだが……まぁ、いいか。)

佐吉はそんなことを今更になって考えながら、一番大好きな人から熱烈なハグとキスを受けていた。





保育参観の日、将来の夢を発表する場にて

「某の将来の夢は、カナダに行って佐吉殿と結婚することでござる!」

と弁丸がみんなの前で宣言し、武田・豊臣両家の保護者が盛大に腰を抜かすのだがそれはまた別のお話。




☆おしまい☆




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