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曇天、二人きり(七夕記念・伊達主従)
今日は七夕。
しかし生憎の曇天で、月も星も見えなかった。夜になっても気温はあまり下がらずに、じっとりと湿った風が縁側で寛ぐ政宗の頬を撫でて行った。
「あんまり涼しくねぇなぁ、せっかく出て来たってのに。」
政宗が一人ごちると、小十郎が熱い茶と小さな菓子をいくつか持ってやって来た。それを横目に見て更に政宗は零す。
「……Ah〜、小十郎。夕涼みにソレか。昼下がりの老夫婦じゃねぇんだ、酒くらい用意しろよ。」
「なりませぬ。政宗様には本日分の執務がまだ残っておりますので。」
若干甘える政宗を、ぴしゃりと切り捨てる小十郎。
「それにこの茶菓子は、姉の喜多が用意したもので、なかなかに上等な代物なのですよ。」
まだ何か言いたげな政宗に茶と、葛で餡を包んだ菓子を差し出す。
「へぇ……。」
小さくとも意匠の凝らされた和菓子に、眼帯をした美青年の表情が緩んだ。皿の代わりに笹の葉を使用していて、見た目も一層涼やかであった。そんな喜多の小さな心遣いにも感心した。
「何か願い事、したのか?」
先ほどの菓子を頬張りながら、政宗が小十郎に問い掛ける。見上げる先に、相変わらず星は光っていない。
「星に願って叶うようなことならば、自力でなんとかなるような気がしますが。」
「……realistだな、お前は…。」
口を尖らせながらつまらなさそうな政宗に、小十郎は続ける。
「小十郎めの願いは政宗様が天下を治めることにございますから。かような願い、神や仏や星に頼まなくとも現実のものにして下さいますのでしょう?」
「…Ha!of course!当たり前だろ?お前が側にいてくれりゃ、な。」
自信たっぷりににぃ、と笑う主に、小十郎も満足そうに柔らかく笑った。
「そうだ、“政宗様が真面目に執務に励んで下さいますように”とでも短冊に書いておきますかな。」
「そりゃ叶わねぇな、やめとけ。」
楽しそうな笑い声が二つ、伊達屋敷から零れる。
静かに、ゆっくりと流れて行く時間。この幸福を、噛み締めるかのように。
「しかし、天の川が見えないのが少々残念ではありますな…。」
ぽつり、ぽつりと雨粒が庭石を濡らしていく。とうとう雨が降って来たようだ。
「いいんだよ。逢瀬は二人きりでするもんだろ?」
政宗は小十郎の手を取った。
雨雲の向こうに隠れた天の上でも、恋人達は二人きり、こうして睦み合っているのだろうか。
―終―
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