猛暑日(幸三・学パロ)


 今日は最高気温が37℃を超える、猛暑日となった。
 そんな日の昼休み、佐助は信じられないものを見た。何もしないでいても汗が吹き出して来るこのくっっっそ暑い中、ぴったりくっついている男子生徒が二人いた。幸村が、三成の背後から覆い被さるように抱き付いているのだ。あろうことか幸村は、三成のシャツの中に手を突っ込み、彼の首筋に顔を埋めている。もれなく二人は、教室中の視線を独占していたのだった。勿論、その理由は『こんな日に暑苦しい…』だけではない。
「ちょ…っ!アンタら何やってんの!?」
 背景に薔薇でも咲いていそうな、めくるめくBLの世界を繰り広げている二人に、佐助は堪らず声を掛けた。
「おお佐助か!三成殿は体温が低いので、こうしてくっついていると気持ちがいいのだ!」
 三成は低体温なので、平熱は35℃台、悪いときは34℃台だ。外気温より低いために、彼の肌に触れればひんやりと感じる。幸村はそれがお気に入りらしかった。
「だからって……。石田の旦那は暑くないの?」
「心頭滅却すれば火もまた涼し。気の持ちようだ。」
 『修行僧かっ!!』佐助は心の中でそうツッコんだ。しかし、三成は涼しい顔をして汗一つかいていない。それだけ暑さに強いならば何の心配もないが、新陳代謝の働きが鈍いせいで汗が出てないのなら大問題である。一年を通して不健康そうな三成だ、有り得ない話ではない。
「取りあえず二人とも、熱中症にならないように水分だけはしっかり取っといてね。俺様自販機で何か買って来「真田!ずるいぞ!!」
 いつもの『おかんスキル』を発動させた佐助のセリフを遮り、何者かが教室へと飛び込んで来た。
「徳川殿!」
 現れたのは『三成好き好き大好き!』ストーカー一歩手前の家康だ。トレードマークの黄色いパーカーは、今日は腰に巻き付けられていた。さすがに着ていられなかったらしい。
「そんなに密着して!ワシだって三成の体で気持ち良くなりたいぞ!!」
「気色の悪い言い方をするなっ!!!」
 不愉快な発言を受けて、三成は家康にペンケース(←幸村のもの)を思い切り投げ付けた。それをひょいとかわし、家康は笑顔で二人に近付いて来た。
「真田、代わってくれ!順番に気持ち良くなろうじゃないか!」
「来るなきもやす!!」
「徳川の旦那の発言、すんごいキモい。これあげるから帰って。」
 佐助は、まだ冷たい弁当用の保冷剤をシャツの襟から家康の背中に入れた。
「い゛っ!?」
 家康が一瞬怯んだその隙に、三成と幸村はその場から逃走した。
「おぅ家康!お前もこっちに来て、一緒にメシ食おうぜ!ほら、これやるよ!」
「おお!それは!!」
 そして元親が、家康の好物の『五平餅ロール』を餌に彼のホールドに成功。三成や家康達が本気で暴れ出すと、周りへの被害も甚大だ。元親と佐助は、密かにアイコンタクトをして互いを讃え合ったのだった。

 「いやぁ、ゆっきーとみっちゃんはラブラブだねぇ。冬も夏も仲良くくっついててさ!」
 1Lパックのウーロン茶を豪快に飲みながら、からから笑って慶次が言う。それに対して眉間にシワを寄せ怪訝な顔をしたのは佐助だ。
「石田の旦那と真田の大将は付き合ってないよ?」
「えぇ!?」
「What!?」
 慶次と、政宗の驚く声が見事に重なった。
「残念ながら、あのお二人はただのお友達です。石田の旦那がひっつかれるのを認可してるのは、冬の間に大将で暖を取ってた見返り。」
「「………。」」
 慶次と政宗が、何とも言えない顔で黙ってしまったのは無理のないことかも知れなかった。何せ幸村と三成は、登下校も一緒なら体育のペアも一緒、掃除当番の班や教科の係まで同じだ。そしてあの激しいスキンシップ。周囲の人間の大半が、彼らが性別を超えた恋人同士だと思っているだろう。
「…まぁ、『今』はお友達。何かきっかけがあれば分からないけど。」
(お互い好き合ってんのは明白なんだから。)



 一方の幸村と三成は、冷房の効いた図書館へと退避していた。
「っくしゅ!」
「三成殿、寒うございますか?この席はクーラーが直撃しますからな。移動するでござるか?」
「それでは貴様が暑いだろう。」
 三成は自分の手を引く幸村を制し、彼の肩に頭を預けた。
「……これでちょうど良い。お互いにな。」
「で、ござるな。」
 再び背後に薔薇を咲かせながら、小さくほほ笑み合う二人。場所を変えてもなお、彼らはべったりなのであった。





 おまけ。

 「三成殿は、シャンプーの匂いと洗剤の匂いと…仄かに甘い良き香りが致しますな。」
「真田は少し……汗臭いな。」
「すみませぬ!シーブリーズが部室にあるので取って参りますっ!!」
「構わん。貴様の匂いだ。不快ではない。」
 そう言って己の胸に顔を埋める三成を、幸村は強く抱き締めた。
((…ずっとこうしていられればいいのに。))

 互いの気持ちが恋慕だと、彼らはいつ気付くのだろうか。




   ―終わり―



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