お呼びでないのB


 次に名前を呼ばれたのは家康だ。彼はプリンセスの前に行くと、
「実はワシ、今好きな人がいるんだ!ワシの恋愛が成就するか見てくれないか?」
 と笑顔を浮かべて恋愛運を見て欲しいと申し出た。それにプリンセスは頷き、早速矢を射った。…が、それはライトに当たって家康の足下に落ちて来た。
「…あ……。」
 それを見たプリンセスの顔色が変わる。
「プリンセス、これは良いのか?悪いのか?」
 家康は矢を拾い上げると、プリンセスに手渡した。
「家康さん……。た、大変申し上げにくいんですが……。」
 プリンセスは眉をハの字にして、困った様子で言いあぐねている。家康が言ってくれと促すと、ようやく口を開いた。
「家康さんの恋が叶うことはありません。貴方の想い人は、貴方のことを『去れ』とか『往ね』とか『死ね』とか思っています…。心の底から。」
「え、えぇ!?」
 目が点になる家康。三成はゲスト席で幸村にひっつかれながら、「当たっている…。そう思っている…。」と密かに思っていた。
「それに、その方にはもう心に決めた大切な人がいるみたいですよ。諦めないと身を滅ぼすと見えます。」
「そ…そんな……。」
 家康はがっくりとうなだれた。いつもの明るい雰囲気はどこへやら、暗いオーラに包まれている。
「でも、その方以外なら、家康さんは何だって手に入りますよ!天下だって取れちゃう、そういう光輝く星の元に生まれた方ですっ!何も悲観することはありませんよ。ニコッとして、エヘッてして下さい☆」
 プリンセスは可憐な笑顔を見せてそう言ったが、家康は葬式のようなテンションで席へと戻って行ったのだった。
(でかしたプリンセス・ツル!)
 その様子を見て、佐助が小さくガッツポーズをした。そして、後でプリンセスに何かお菓子でも差し入れしようと決めた。



 翌日のこと。共演はしないが同じ局内に家康がいると知り、幸村と三成は警戒の色を強めていた。特に幸村は、三成の番犬のように周囲を睨み付けていた。
「昨日プリンセスにあんなに言われたんだもん、石田の旦那のことは諦めたんじゃない?」
 慎重に一歩一歩進む二人の後ろから、佐助が声をかける。
「確かにあの占い師の言っていたことは当たっていたが……、っ!?」
 息を飲んだ三成の視線の先には、黄色いパーカーを着た家康がいた。自販機で飲み物を購入しているようだ。奴に気付かれる前にと三成は佐助と幸村の背後に回ったが、幸村がいる時点で対を成す三成がいることは明白だ。
「三成〜!!」
 家康は嬉しそうに駆けて来る。
「あんた、昨日プリンセスに散々に言われただろ!?石田の旦那にちょっかいかけるのはもうやめてよね!」
 三成には触れさせまいと佐助が道を阻む。しかし家康は動じない。
「占いなど当たるも八卦当たらぬも八卦!ワシは己の力で絆を結ぶと決めたんだ!三成、ワシと……いてっ!?」
 うさん臭いまでの笑顔で三成を口説き始めた家康だったが、突然彼の背中に何かがぶつかった。
「おぉ、徳川よ、すまぬな。番組で使う道具をぶちまけてしまって…。」
 そう言うのは、三成の友人で番組制作スタッフの吉継だった。吉継の手元から、白いボールのようなものがまるで意志があるかのように浮き上がり、家康目掛けて飛んで行った。5、6発それの直撃を受けて、家康がよろめく。そこへ、『前田動物園』という番組のマスコットキャラの猿、夢吉が現れ家康の顔面を思い切り踏み付けて去って行った。
「ぶっ!?」
「おい、夢吉待てよ!」
 それを追いかける夢吉の飼い主・前田慶次にもぶつかられ、とうとう家康は倒れた。
「悪いね、俺急いでるんだ!」
 更にそんな彼の上を、通り掛かったモデルの毛利元就が無言で極々自然に通過して行った。家康はカエルが潰されたような呻き声を上げる。怒濤の不運(?)に見舞われて起き上がれない家康の脇をすり抜けて、佐助達は控え室へと逃げ込んだ。

 「三成殿を諦めねば身を滅ぼす……。噂通り、鶴姫殿の占いはよく当たりますな。」
「…こっわぁ。」
「これに懲りて二度と姿を見せねばいいが。」
 ペットボトルの緑茶を飲みながら、三人は『ざまあみろ』と思っていたのだった。
「み、三成ぃ……。」
 家康の三成を呼ぶ悲しい声は誰にも届かず、彼を探しに来たマネージャーの本多忠勝に担がれ、家康はテレビ局の奥へと消えて行った。



 (あの方の占いがこんなに当たるなら、三成殿は俺のもので安泰だ!)
 例のごとく、幸村は三成を抱き寄せていちゃいちゃべたべたちゅっちゅを始めた。
「ふぁ〜、今日も平和だねぇ。」
 佐助は大きなあくびをしながら、テレビを暗いニュースからドラマの再放送にチャンネルを変えたのだった。




   おしまい!




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