だだ!(幸三・現パロ)


 ※お笑い芸人パロ。






 真田幸村と石田三成の二人は、「真田石田」というコンビ名で一応お笑い芸人なんぞをやっていた。お笑いに限らず芸能界で何かしらのコンビやグループと言えば、カメラの前では仲良しでも実際は喧嘩が絶えないらしい…とはよく聞く話だったが、二人は私生活でも仲が良く仕事の関係で揉めたことなどは一度たりとも無かった。
 見た目も良い、並んだ感じのバランスも良い、コンビ名もありきたりだが分かりやすい。その上仲も良い。ついでに言えば、彼らのマネージャーの猿飛佐助もかなりの敏腕だった。文句の付けようのない二人組かと思いきや、


 「隣りの塀が囲いでござる!」
「知るか。」


 ………笑いのセンスが壊滅的なのであった。

 当然仕事は少なく、幸村も三成もバイトを掛け持ちして貧乏生活をしていた。昭和の終わりに建てられた築25年の決してキレイではない2DKのアパートに、二人は家賃を節約するために一緒に暮らしていた。時折そこに佐助がやって来て、二人の世話を焼いていたりした。
 だが、ある時そんな真田石田に一つの仕事が舞い込んだ。抜群のルックスと、何だかんだで印象に残るキャラクターを買われてのことだった。仕事内容はお昼過ぎのワイドショー内のリポーターで、『真田石田の、ランチにお邪魔します!』というどうにも分かりやすいコーナーを任された。「オフィス街から下町まで、ランチがお得でおいしいお店を訪ねて紹介する」という主旨のコーナーで、一回の出演は5分〜10分であったが、帯番組のレギュラーコーナーということでなかなか悪くはない仕事だった。


 いつものように、昼食の時間帯で賑わう飲食店の前にいる二人。ADの開始のサインと同時に、カメラが回り始める。
「真田!」
「………石田の」
「「ランチにお邪魔します!」」
「今日は丸ノ内にある、鍋料理店『鍋奉行』さんにお邪魔します!でござる!」
 お決まりの挨拶もそこそこに、店内に入って行く二人。全体的に丸みを帯びたフォルムの、何だか妙にイラッとする店主に話を聞いて、お目当てのおすすめランチを注文する。ここは鍋料理専門の店らしいが、ランチの時間帯だけは雑炊(+漬物+デザート)のセットを出しているそうで、幸村と三成の前にほかほかと湯気の立ち上ぼる、野菜のたっぷり入った雑炊が出された。
「おおぉ〜、良い匂いがしますなぁ。早速一口!…あ、熱うござるっ!でもこれはうまい!店長、お出汁が効いておりますな!半熟の卵も最高でございます!」
 先ほどから幸村ばかりが喋っている気がするが、真田石田はこういう仕様なのである。三成は無駄に口を利かず、9割以上幸村が喋る。
「某、今度はこちらで是非お鍋を頂きたいでござる!三成殿はいかがでございますか?」
「……悪くない。」
「頂きました『悪くない』!店長、三成殿の『悪くない』は最大の賛辞なのでございますぞ!」
 三成の感想を聞いて、幸村が何故だかやたらに気に障る店主に笑いかける。その弧を描いた口許に、米が一粒付いていた。
「真田。」
 それを三成が見逃すはずもなく、彼は何の躊躇いもなくその米粒を食べた。
 ……ぱくっと。直接。口で。
「みっともないだろう。子どもでもあるまいし。」
「わわ、すみませぬ三成殿。」
 瞬間、店内が凍り付いたのだが二人はまったく気にしていない。そればかりか、
「あ、三成殿の頬にも米が付いておられますぞ?」
「何?私がそんな…。」
「ウ、ソ、で、ござるっ!」
 幸村が三成の額を人差し指でつん☆とつつき、中継で繋がっていたスタジオの空気までもを凍らせてしまったのだった(一部で聞こえる女性達の「キャー!」という声を除いて)。



 その放送を契機に、真田石田は売れ始めた。深夜のお笑い番組だけでなくトーク番組やクイズ番組などのバラエティにも呼ばれるようになり、二人は一躍有名になったのだった。

 「自分ら同棲してるって噂あるけど……それホンマなん?」
「はい、一緒に暮らしております!」
「えー!?石田君ほんとにー!?」
「…私も真田も嘘は吐かん。」
「そうでござる!」
 二人が顔を見合わせる度に、観覧席の女の子達が黄色い声を上げる。
「二人で貧乏生活してるって話はホンマなんやね〜…。何かとびきりの節約術とか、あらへんの?」
 スタジオの空気がちょっとおかしくなりかけているので、関西人のMCは話題を変えようと試みる。
「暖房を使わないために、寒いときはずっとくっついております。あ、そもそも布団は一組しかなくて。あとお風呂は一緒に入って、水道代の節約に繋げております。」

 キャ〜!!

 「そ、そうなんか…。」
 二人(ほぼ幸村)の受け答えと客席の歓声に、司会者は戸惑いを隠せなかった。

 こうして真田石田は、「貧乏BL芸人」という良く分からないジャンル(多分新ジャンル)で大当たり。最早飛ぶ鳥を落とす勢いだった。


 「真田、私のパンツが一枚見当たらないのだが…知らないか?」
「それって、紫色のチェックのトランクスでございますか?」
「確認するな。ズボンの中を覗くな。」
「申し訳ありませぬ、某間違えて穿いて来てしまった模様…。お返し致します、今すぐ!!」
「今すぐはいらん、脱ごうとするな!!」
「左様でござるか。
しかし嫌ですなぁ、これでまた『真田石田、今度はパンツ共用』だなんて噂が立ちますぞ。まぁ、確かに時折、某は石田殿のタンスから拝借しておりますから事実でございますが…。」
「…貴様、それは初耳だぞ……?」
「や、安上がりで済むではありませぬかっ!」


 漫才の内容も、それっぽくシフト。脚本は、彼らの日常生活を元に佐助が書いている(基本的にはノンフィクション)。



 売れっ子となり出演依頼も大幅に増えた幸村と三成だったが、二人はピンでの仕事は全て断っていた。二人合わせて真田石田だからと、いつも一緒にやって来て、いつも一緒に帰って行く。このスタンスをずっと貫いているからこそ、人気を保てているのかも知れなかった。そして、多少経済的に余裕が生まれても、二人がちょっと古いあのアパートから引っ越して行くことは決してなかった。「真田石田・マネージャーの男と泥沼三角関係」とか「石田三成に新たな男の影」とか妙なゴシップが次から次へと週刊誌に掲載されたりもしたが、当人達はどこ吹く風。今日も今日とて、真田石田は二人並んでテレビ局へと出掛けて行ったのだった。

 「某、三成殿が大好きでござる!」
「………私とて、嫌いな人間と暮らしたりなどするものか。」




    終わり☆



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