ふくれ焼き餅A


 「大将、いいのかよ。長曽我部の旦那に石田の旦那、取られちまうぜ?」
 随分と沈んでいる様子の幸村に、佐助が声を掛ける。こうなっている原因は分かり切っているのだから、いきなり核心を突いてやった。
「初めから三成殿は俺のものではない。いいも悪いもない。」
 しかし幸村は窓から空を眺めたまま、何とも張り合いのない返答をするのみだった。
「…ふぅん、いいんだ。なら俺様もあの人のこと狙っていいワケ?石田の旦那美人じゃん。へへ、かすがみたいに、糸で絡めて捕まえて来ちゃおっかな♪」
「佐助!!」
 幸村は叫ぶように佐助の名を呼び、外へ行こうとする彼の手首をぎりりと締め上げた。
「いって…っ!!」
「三成殿に手を出すなっ!!!」
 怒気を孕んだ幸村の瞳は、獰猛な虎のそれようである。
「……やっぱりダメなんじゃん。
譲れないんだろ!?渡したくないんだろ!?アンタ石田の旦那が好きなんだろ!?なら行って来いよ!!後で悔いたって何にもならないんだぜ!?」
 佐助は自分を鋭く睨み付ける眼光に怯むことなく、強く、諭すように幸村に檄を飛ばした。
「……佐助…。
すまなかった…。」
 幸村は静かに佐助の手を離すと、何か吹っ切れたように笑顔を見せた。
「やはり、俺はまだまだだ。誰かに叱り付けてもらわねば前に進めぬ。佐助、礼を言うぞ!俺が迷ったら、また背中を押してくれ!」
 さっきまでの鬱々とした雰囲気が嘘のように、晴れ晴れとした表情でトレードマークである赤い鉢巻きを締め直す幸村。そして、
「では行って参る!!三成殿ぉおおお!!!」
 がったーん!と襖を豪快にブチ倒し、恋しい彼の人の元へと駆けて行った。
「…今度はあの背中蹴り飛ばしてやる。ま、大将はこーでなきゃ調子狂うよね。」
 佐助は、彼を見送りながら辟易したように肩をすくめた。それから、世話の焼ける…と小さくほほ笑んだ。



 「三成殿っ!」
 広い城内を走り回り、幸村はようやく三成を見付けた。
「……真田。」
 久し振りに、この人を正面から見た気がする。まるで月光のように輝く銀色の髪に、金色の瞳を縁取る長い睫毛。透き通るような白い肌と、形のいい薄い唇。幸村は、改めて三成を美しい人だと思った。彼に触れたいと幸村が手を伸ばすより先に、幸村の左の頬を三成の右手がそっと包んだ。
「…長曽我部に聞いた。気持ちを伝えるときは、こうして相手に触れることも重要だと。
真田、何があった?」
 三成の瞳と、少しひやりとした手の平はとても優しかった。あんなに嫌な態度を取ったのに、と幸村は情けなくなった。
「いつも喧しい貴様に元気がないと……少し、少しだけ、寂しいと思う。塞ぎ込んでいる理由を言え。拒否は認めない。」
「…三成殿が長曽我部殿と仲良くしているのが嫌でござった。某は三成殿が大好きでござる。だから、違う誰かが貴殿の側にいるのが、耐えられなかった……。つまらぬ嫉妬で不愉快な思いをさせて、真に申し訳ありませぬ。」
 気持ちを吐露し、真摯に謝罪をする幸村。それからゆっくりと目を閉じて、己の頬を包んでくれる手にすり寄って想い人の体温を感じた。
「三成殿が長曽我部殿を好いていても、某は誰にも貴殿を渡したくない。この気持ちをどこかに仕舞っておくことなど…できませぬ……。」
 今にも泣き出してしまいそうな幸村を見て、三成はふふ、と声を漏らして笑った。
「誰が誰を好きだと?何を勘違いしているかは知らないが、私と長曽我部は貴様が思っているような仲ではない。言うなれば……友、か?それ以上でもそれ以下でもない。」
 そう言ってから、三成は幸村の胸に飛び込むようにして彼に抱き付いた。三成の思わぬ行動に、幸村の顔が一気に真っ赤になる。
「私が貴様を裏切ると思うか?」
 ふわ、とほほ笑んだ三成に、幸村の鼓動は早鐘を打ったのだった。



 無事に仲直り(?)をした二人は、久し振りに並んで甘味処へと足を運んだ。幸村は皿に山積みになった団子を頬張り、三成は善哉をちびちびと食べていた。
「三成殿、いつも長曽我部殿とは何を話していらしたのですか?」
「別に……。教えるほどのことではない。」
「えー!?気になるでござるー!!教えて下され〜!!」
「う、うるさいっ!」
(…貴様のことを相談していただなんて、口が裂けても言えるか!)
 「嫉妬をさせるのも恋の駆け引きの一つだぜ!」という元親の助言を思い出しながら、三成は善哉に浮かんだ軽く焦げ目の付いた餅を箸でつついたのだった。




   おしまい☆




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