やきもちきな粉A


 「三成殿!」
 がらりと無遠慮に襖を開けて、幸村は三成の私室へと入って行った。三成はその無礼とも取れる行動を咎めるでもなく、そのまま読書を続けていた。幸村が来たことには気付いているはずだが、まったくの無視。彼の横顔も綺麗だけれど。
「兵法の書でござるか?是非某にも天下の豊臣の策を……。」
「出て行け。」
「お茶を持って参りました。一休みしませぬか?」
 ぴしゃりと言い放つ三成に、幸村はめげない。会う口実のつもりで作った訳では無く、勿論彼に喜んでもらうためにこのおはぎを用意した。しかし、何か話せる機会が欲しかったのは事実で。何故自分を避けるのか、その理由が聞きたかった。
「いらん。目障りだ。失せろ。」
 ようやくこっちを向いてくれたと思ったら、鋭く睨み付けられた。一体自分は何をしてしまったのだろうか。こんなに冷たい目で見られてしまうだなんて。
「……某、何か粗相を?」
 思わず涙目になって、三成を見る幸村。
「情けないことに身に覚えがなく、何故三成殿が某を忌避されるのか分からないのでござるよ…。」
 いかにも被害者、というような体の幸村の態度に、三成の怒りは一瞬にして頂点に達した。
「何か、だと!?私を裏切ったくせに!!」
「裏切った!?」
 凶王の瞳で自分を射抜く三成に、幸村はびくりと固まる。
「そ、某はそんなことは一切…っ!」
「黙れ何も聞きたくない!出て行け!!」
 三成は幸村の持って来た盆をひっくり返し、そうしてようやく気が付いた。これに何が載っていたのかと、幸村の汚れた身なりに。
「貴様、これは……。」
「先日、女中の方々に厨でお聞きしたのです。三成殿がきな粉のおはぎがお好きだと。」
「……何だと…?」
 以前、厨で下働きの者達と談笑していた幸村の姿が三成の脳裏に蘇る。
(まさか、それはあのとき……。)
「それでこちらを某が作ってみたのですが、不格好で…。ちょ、ちょうど良かった。こんなものが三成殿の口に合うはずがありませぬ。もっと、違うものを……。」
 幸村は笑顔を作ってぶちまけられたおはぎと皿や湯飲みを片付けるが、その声は震えていた。
「………いらん。」
 三成は畳の上に落ちたおはぎを拾い上げ、口に入れた。
「三成殿!?」
「他の菓子などいらん。これでいい。」
 崩れてしまったおはぎを咀嚼する三成の小さな口。幸村は汚い!と慌てて止めた。
「こんなもの、食べなくて良いのです!吐き出して下され!!」
 だが三成は、
「私のためにと作った貴様の気持ちを、裏切りたくはない。」
 と言って幸村の手に付いたきな粉までも舐め取った。
「みみみみみみみ三成殿おぉおう!!?」
 ぼばーん!と顔を赤くした幸村に三成は「少々甘過ぎるな。」と妖艶に笑った。


 「勘違いでヤキモチとは、凶王の旦那も可愛いとこあるね。」
 と、全てを悟った佐助は、二人の様子を眺めて屋根裏で密かにほほ笑んだのだった。




 その後……妙におはぎ作りに凝ってしまった幸村は、連日厨に立っては「三成殿のためにうまいおはぎを!」ともち米を丸めていたのだった。食の細い三成が、飽きた、と吉継に漏らすまでにそう時間はかからなかったと言う。




   ―終わり―



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