やきもちきな粉(幸三)


 幸村の声は、大きくて滑舌も良く、はきはきと喋るので良く通る。そんな彼の声が何やら厨の方から聞こえて来たので、三成はこんな場所で珍しいと思い、足を止めて何の気無しにそちらを覗いてみた。
 するとそこには、女中達と楽しそうに話をしている幸村の姿が。
「そうでござったか!ありがとう、某は知らなかった!」
「そんな、真田様のお礼には及びませんわ。」
 幸村がにっこりと笑顔を向けると、その場にいた女中は皆頬を紅潮させた。彼もまた、ふにゃふにゃと笑みを崩さぬままだった。
「………。」
 それを見た三成は僅かに顔をしかめて、静かにその場を立ち去った。



 それから三成は、中庭に来てひたすら刀を振り続けた。先の幸村の笑顔が頭から離れず、妙に苛々するのだ。何かにつけて「破廉恥!」を連呼する幸村が、あんなに浮ついた男だとは思っていなかった。


 (…私を好きだと言ったくせに……!)


 裏切られた、三成はそう思って刀に込める力を一層強くしたのだった。持ち主に良く似た美しく鋭い刃が空気を斬っている、その音だけが辺りには響いていた。



 一方幸村と言えば、鼻歌を歌いながら茶菓子を頬張っていた。ついでに本日のおやつは、佐助お手製のお団子。
「旦那、何か嬉しそうだねぇ。何か良いことでもあった?」
「おお!分かるか佐助!実はな、厨で良いことを聞いたのだ!」
「へぇ、なになに?」
「聞きたいか?だがそれはまだ内緒だ!」
 そう言って幸村は、団子の刺さった串でぴっと佐助を指した。
「それお行儀悪い。」
 相変わらず親子みたいなやりとりをしている二人の前を、三成が通りかかった。先ほどからずっと刀を振っていたせいだろう、彼は珍しく汗をかいていた。
「あっ、三成殿!良かったら一緒に団子を食べませぬか?」
「俺様特製だよ〜!」
 三成を見付けた幸村と佐助はすかさず声を掛けるが、三成は二人に一瞥もくれずそのまま何処かへと行ってしまった。
「………あれ?」
「三成殿…?」
 キレイにスルーされ、二人はぽかんとしてしまう。同盟を組んで日が浅い時期ならばいざ知らず、近頃は大分打ち解けていたからこんな扱いを受けるだなんて思っていなかった。



 それからと言うもの、幸村は三成に避けられ続けていた。一言で冷たくあしらわれたり、まるでその場にいないもののように扱われたり。幸村は何が何だか分からず、ただ悲しかった。
「三成殿……。」
 だが、落ち込んでばかりいるような幸村ではなかった。
「三成殿の好物を作るのだ!佐助、手伝ってくれ!」
 材料を買い込み、佐助を引き連れ厨へと乗り込んだ。元来器用ではない幸村は、ねとねとするもち米との格闘に大層骨を折っていた。ひょっとしたらそれは、伊達政宗との決闘よりも大変な作業だったかも知れない。しかし佐助の手伝いのお陰で、どうにか出来上がったのはきな粉のおはぎ。
「できた!」
「うん、見た目はアレだけど旦那にして良く出来たんじゃない?」
 幸村はもち米や砂糖やきな粉で顔や手、着物をべたべたにしたまま、喜々としてそのおはぎと茶を用意して三成の元へと向かったのだった。




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