貴殿と某(学パロ・幸三)


 ※高校生、現パロ。転生ではありません。






 「えぇー!?まだ手も握ってないの!?」
 慶次の驚いた声が、放課後の教室に響く。


 恋バナが大好きな慶次は、幸村を捕まえて交際中である三成と今どうであるか、どこまで進展したのかなど、根掘り葉掘り無遠に慮聞いていた。だが二人は、付き合い始めてもうすぐ半年経つと言うのにまだ手も繋いでいないらしい。そのことに驚いて、彼は先ほどの大声を出したのだった。
「何か、おかしいでござるか?」
 しかし言われた幸村は、きょとんとして首を傾げただけだった。

 「Hey,アンタ達何か楽しそうな話してんなぁ。」
 そこに、友人の政宗と元親、幸村の幼馴染みである佐助と、三成の幼馴染み(三成曰く腐れ縁)の家康がやって来た。
「あーイイところに!ちょっとみんな聞いてよ!幸村ってばさぁ〜!」



 「はぁ!?マジかよ!?マジで何もねぇの!?」
 何の進展も無い幸村と三成の仲を聞いて、元親も驚く。
「つーか逆に聞くと、アンタ達いつもはどうしてんだ?恋人らしいこと、一つくらいしてんのか?」
 呆れ顔の政宗が幸村に問う。
「一緒に登校をして、昼食を一緒に食べて、帰りも可能であれば共に帰っておりますが……。」
「……旦那ぁ、それじゃクラスメイトの大半が付き合ってることになっちゃうよ…。」
 幸村と付き合いの長い佐助であったが、彼の奥手っぷりがここまでであったかと、疲れたように肩を落とした。
「そ…某も三成殿も!かようにふしだらではないのだ!」
「ふしだらって……。」
 皆が「何だよお前ら〜」と言う落胆の雰囲気の中、家康だけが瞳をキランキランさせていた。
「いいじゃないか真田、清いお付き合い!
まだまだワシにも三成を寝取るチャンスがあると言うことだな!!」
「アンタ何言ってんだ!!」
 幼い頃から、ずっと三成に片想いを続けて来た家康。まだまだ諦めるつもりは無いらしく、気付けば不穏な発言を飛ばしている。
「なななな何と!!?三成殿に狼藉を働くつもりでござるか!?破廉恥!徳川殿の性犯罪者!!性犯罪者!!!」
「何か二回言ったよ!?」
 幸村はガタンと音を立てて立ち上がり、怒りと羞恥で顔を真っ赤にして怒鳴る。しかし、
「まだ実行に移してないじゃないか。ハハッ、真田爆発すればいいのに。」
 そんな幸村の様子を気にする風でもなく、家康は笑って言ってのける。
「爽やかな笑顔で危ねーなこの人!!」
 ついでに、先ほどから一人でツッコミを担当しているのは佐助である。



 「貴様達、何を騒ぎ立てている。廊下まで丸聞こえだ。」
 ガラッと扉が開くと同時に現れたのは、ちょうど今話題となっていた人物、三成だった。風紀委員である彼は、学校指定の制服をきっちりと着用していて、本人の纏う空気も相俟ってか常に高潔な雰囲気を醸し出していた。
「三成殿!」
「三成!」
 三成の登場に喜んだのは幸村と家康だった。
「委員会の仕事、終わったのか?」
「お疲れ様でござる!」
 主を見付けた子犬のように三成の元へと駆け寄る二人。だが三成はそれに構わず、帰宅するためにさっさと荷物を片付け始めた。それから慶次達に視線をやり、規則を厳守する実に彼らしいセリフを言った。
「貴様ら、まだ残るなら戸締まりを忘れるなよ。そして最終下校までには帰れ。」
「あ、ああ…。分かったよ。」
「それともう一つ。
私は真田と共にいられればそれで良い。下手な詮索は止めろ。
真田、帰るぞ。」
「は…はい!」
 三成は足早に教室を出て行ってしまい、それを追いかけるように幸村も駆けて行った。


 そんな二人を見送って、ヒュウ、と元親が口笛を吹いた。
「石田、オットコ前だな〜!」
「Ha!見せ付けてくれるじゃねぇか。」
「俺様達が心配するこたぁ無かったね。」
 何だかこちらの方が恥ずかしいような、そんな気持ちにされた残された面々。見事にフラれた家康だったが、全くダメージは無く「三成はいつ見ても美しいな……。」とうっとりしていた。
「嗚呼…罵られたい…。いや、いっそぐちゃぐちゃに汚してやりたい……。」
 恍惚とした家康の危険な呟きを、その場にいた全員が聞かなかったことにした。





 人通りも少ない薄暗い路地を、二人は並んで歩いていた。先ほどの三成の言葉にドキドキし、そして自分の不甲斐無さに落ち込んで、幸村は下ばかり見て歩いている。
(……俺は情けない…。三成殿は、皆の前であんなにはっきりと言葉にしてくれたのに……。)
 勿論、側にいるだけで充分なのだ。だが、それだけではいけないと思う。何か自分は行動に移さねば。
(手…、手を…!)
 幸村はごくり、と唾を飲み込み、意を決して口を開いた。
「三成殿!」
「どうした真田。さっきから険しい顔をして。」
「へ!?そんな顔をしてござったか?いやぁ何でも無くて!…そ、そのぅ……。」
 たった今決意をしたばかりだと言うのに、うまく言えないし体も動いてくれない。宙をさまよった幸村の手は、行き場なくブレザーの裾を握り締めた。情けなくて、涙が出そうになる。

 そんな幸村の気持ちを汲み取ったかのように、三成はすっと右手を差し出した。たった一文字の言葉と共に。
「…手。」
「!
三成殿!!」
 幸村は嬉しくて嬉しくて、思わず彼の手を両手で握った。


 「真田、これでは握手だろう。」
 そう言って、ほんのりと頬を紅く染めながら三成がくすっと笑う。それを見て同じように幸村も笑った。




 マイペースな二人の恋が、僅かに前進した瞬間だった。




   おしまい☆



- 17 -


[*前] | [次#]
ページ:





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -