Iの絶望(家→三)


 「家康…家康……家康ぅううう!!!」
 石田三成は、徳川家康にひたすら復讐心を燃やしていた。


 「三成、三成…嗚呼……三成ぃ〜!!!」
 一方の徳川家康は、石田三成に一途に恋焦がれていた。

 倒すべき敵となっても尚、家康はどうしたら三成に振り向いてもらえるかと、そればかり考えていた。豊臣傘下時代はいつだって彼の側にいて気持ちを伝えていたつもりだったし、離れてしまってからも募る想いを何度も文にしたためた。と言うかさっきも5mにも及ぶ大作のラブレターを出したばかりだ。

 ……家康は、激しくわき起こる愛故のその行動を、三成が心底うざったいと思っていることに残念ながら気付いていなかった。むしろ三成は、それを趣味の悪い嫌がらせとしか認識しておらず、愛情が伝わるどころか日に日に憎しみだけが増して行くのであった。





 そんな、決して交わらない感情を抱えた二人がとうとう関ヶ原で対峙した。


 「家康ぅうう!!ようやくだ!貴様の首をようやくこの手で刎ねられる……っ!家康ぅううう!!!」
 本人を目の前にして、まるで気がおかしくなったかのように家康、家康…と名前を口にし続ける三成。その異常さに対し家康は、おののくでもなく頬を赤く染めた。

 「三成……。そんなに名前を呼ばれたら、ドキドキしてしまうな……。ワシは此処にいるぞ、三成!!」

 家康は、どんな思考回路をしているのか。さぁ三成ウェルカム!と言わんばかりに両の腕を広げる。



 その場にひやりとした空気が流れ、西軍の兵士も東軍の兵士も皆一様に凍り付く。そして、三成の瞳に宿っていた憎悪の炎が消えた。と言うか、三成の中の何かしらの感情がたった今死んだ。


 「と、徳川さん…?それ…勘違いなんで……。本当、そーゆーのやめてもらえますか…?本気で気持ち悪いんですけど……。」
 ガタガタ震えながら三成が言う。握った刀がカチャカチャ音を立てている。眼前の男に対する嫌悪感が限界を超えてしまい、口調が変わってしまったようだ。
「…う……っ!」
「石田殿!!」
 本当に気分が優れないのだろう、吐き気と目眩で倒れそうになった三成を、幸村が抱え起こして隣りで支える。
「石田、ここは一旦退却よ。大将がそれではもうどうもこうも無い。」
 元就が素早く兵士達に撤退を指示する。全軍それに異存は無いようで、すぐに引き返し始めた。吉継や幸村、部下達に守られながら三成も遠ざかって行った。
「あの人本当に気持ち悪い……。マジ勘違いなんですけどマジ有り得ないんですけど……。」
「徳川は屑よ。やれ三成、屑の戯言なぞ気にするで無いぞ。」
「もう大丈夫でござる石田殿!さぁ、帰って何か温かいものでも……。」

 最後に元親は、まるで汚いものを見るかのような目で家康を無言で一瞥した。





 「あ…、あんまりだーっ!!」

 家康は、その場で土の上に突っ伏して小一時間泣きわめいたそうな(その間に東軍の皆さんもそれぞれ退いて行った)。

 「真田は三成にくっつき過ぎだし!!何で三成も嫌がらないんだ!ワシなんか近付いただけで斬りかかられるのに!元親も毛利も何か三成に近かった〜!!おおぉう、三成ぃ〜っ!!」




 こうして決着の時は、三成が家康アレルギーを起こしたために無期限で先送りにされたのであった。これで諦めるような男はなかろうが、どんまい、家康。




   おしまい☆



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