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白椿(家→三・暗)
※史実混じり(?)の関ヶ原後。死ネタで暗いのでご注意下さい。
徳川の屋敷の庭には、それはそれは見事な枯山水が施されていた。
敷き詰められた白い玉砂利。その砂利で、水が流れるように美しい曲線が描かれている。整えられた植木に意匠を凝らされた石灯籠、立派な太鼓橋などが何とも絶妙な配置で設置されており、作った者のセンスの良さが窺い知れた。
そんな、常に美しく整備された庭の中で、最近の家康のお気に入りは白い椿の木。ちょうど花の頃となり、暇を見付けてはその木のところへ足を運んでいた。
「あら、上様は今日もあの椿の元へ来ていらっしゃるのね。」
「このところ毎日よ。近頃寒くなったから、お風邪を召されないか心配なのだけれど……。」
今日も白椿を見に来ている家康の背を見付け、数人の女中達が何やら話し始める。いつの時代も、女性は内緒話やちょっとした噂話、お喋りが大好きなものだ。
家康の足下には、白い椿の花が転がっている。完全に枯れる前に、
(いっそ美しいまま)
花は首ごと地面に落ちる。ぼとり、そんな音が相応しいだろうか。
今家康の目の前で花が一つ、命を落とした。
―ああ、首が。
彼は抑揚の無い声でそう言うと、それを拾い上げ、手の平に載せて慈しむ。
「こんなに美しいのに……。」
汚れの無い白い花びらにそっと唇を寄せる。
「何でも上様は、先の大戦の敗将、石田三成にご執心だったそうよ。」
「ええ!?西軍の大将の!?重罪人じゃない!」
「だから、先達て処刑されたじゃないの。京都の方で、打ち首にされたって聞いたわ。」
「私、一度だけその人を見掛けたことがあるけど…確かに美しい人だったわね。月光のような白銀の髪をして、そう、あの白椿のような……。
…!!」
女中達は皆、一様に黙ってしまった。
「……滅多なこと言うものじゃないわね。さ、仕事仕事。」
そして各々、次の作業にかかるべく持ち場へと散って行った。
ぼ と り 。
また一つ。足下に転がる首。
白く、美しい首。
それを拾い集めて優しく愛撫する彼が、想いを馳せるのはただ一人。その人物は、この椿の花のように美しく、哀しくて儚かった。
―終―
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