この、よっぱらい!A


「二人で入ると、お湯が少なくて済むな。」
「普通に狭い。」

狭い湯船の中で、向かい合って密着している俺達。相手が酔っ払いで無ければ、こんな真似は絶対にしない。
……そして、気付きたく無かった事実が一つ。太ももの辺りに当たる清正のソレ。

「…貴様どこを膨らませている。」

俺は地を這うような低い声を出し、清正を思い切り睨み付けた。

「これは生理的反応と言うか、お前と裸でくっついてたら仕方が無「黙れ。氷水に突っ込んで縮ませるぞ。」
「すみません。」

下品な男だ、まったく。



「しかし、お前がこんなに酔うほど飲むとは珍しいな。」
「いや、正則が失恋したとか言ってな…。」

正則は昔の、俺達の兄弟だ。前世の記憶は無いらしく、清正の友人なのだが俺とは直接面識が無い。しかし話を聞く限りでは、今も昔も奴は変わらないらしい(良くも悪くも)。

「あいつを慰めてるうちに、俺まで悲しくなって一緒に飲んじまった。」
「…何だそれは。」

友人思いも良いが大概にして欲しい。今回は俺だけで済んだが、飲み過ぎで他人に迷惑をかけないとも限らないのだ。俺はわざとらしく顔を顰めて見せて、のぼせる前にと浴槽から出ようとした。
だが、清正に手を強く引かれて脱出失敗、奴の胸に顔面をぶつけてしまった。

「ぶ…っ!何をする馬鹿!!」
「だって、俺はお前のこと……。」

強打した鼻を押さえながら目の前の男を睨み付けると、清正はいつに無いような真剣な眼差しをして俺を見ていた。その瞳の色に遠い昔を思い出し、俺は思わず息を飲んだ。

「きよ、まさ…?」
「心底惚れた相手と一緒にいられないのって辛いだろ。俺はその気持ち、すごく分かるから……。」

そして清正の瞳も、遠い昔の俺を見ていた。

「あのとき…俺は…。お前を喪って、本当は……。」
「…いい。何も言うな。
悔やんでいるとでも言ってみろ、貴様とは即座に別れてやる。」
「み、三成…っ!」

俺は密着していた体を離すと、清正の頬をぐにっとつねってやった。

「いて!」
「あのとき、お前はお前の信じる道を進んだのだろう?それで良いんだ。お前と袂を分かったあの結果を、俺は後悔などしていない。」
「………。」

清正の頬から手を離し、今度こそ浴槽から出た。

「今回だけは酔っ払いの戯れ言と聞き流してやるが、次同じようなことを口にしたら貴様とはもう二度と会わないからな。」

…昔は昔、今は今。『お前ではないお前』からの『俺ではない俺』への想いなど、謝罪などいらない。懺悔などされたら堪らない。あれは、一体何のための別れだったのか。それの負い目で今一緒にいるだなんて、考えたくないんだ。

俺は清正に背を向けると風呂場のドアを音を立てて閉めた。




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