育男(イクメン)!A


清正と虎々、二人だけで一日を過ごすということは実は今日が初めてだった。三成抜きで娘の世話などしたことが無いために、眠る虎々を見詰める清正の瞳には、不安の色がはっきりと見えていた。こんなに弱々しい清正など、戦場ですら見た者はいないであろう。虎と恐れられる男が形無しである。
そんなに心配ならば誰かに助けを求めれば良いものだが、左近に手伝ってもらうのも気が引けたし、正則は戦力外である。忙しくしている吉継をわざわざ呼ぶこともできなかったし、行長を頼るということは選択肢にすら無かった。

「なんか俺、嫌われてんだよな……。」

清正は溜め息を吐きながらそう独りごちたが、その手は替えの布おむつを丁寧に畳んでいる。何だかんだと言えど、イクメンが板に着いている証拠であった。



虎々がぱちりと目を覚ますと、視界に入って来たのは父親。いつもすぐ側にいてくれているはずの、美しくて優しい、大好きな母親の姿は見えなかった。三成を探すべく部屋の中を這い回る小さな姫を、清正はひょいと抱き上げた。降ろせとばかりに虎々は暴れたが、赤子の抵抗など清正には無いに等しかった。

「虎々、今日は三成はいねぇんだよ。探しても無駄だぞ。」

その言葉を理解しているのかいないのか、虎々は一瞬きょとんとした後大声を上げて泣き出した。普段ならば、自分の泣き声を聞いたら母は飛んで来てくれる。それが無い…ということは、本当に三成はいないのだろう。状況を把握した虎々は、殊更派手に泣き喚いたのだった。

「うあぁあああ!!」
「そんなに泣いてくれるなよ、父上がいるだろ?」

清正は虎々を宥めようと頬を寄せたが、もみじのお手手でべちっとはたかれてしまった。

ーぴき。
頭に来たが、何せ赤ん坊のすることである。尚も泣き止まない姫を抱いてあやしながら、清正は深〜く深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。

「なぁ虎々、飯にしよう。」

そして、食べ物で釣る作戦に出たのであった。

とろとろにしたお粥の中にすり潰したサツマイモを加えた、ほんのり甘い清正特製の離乳食。虎々はこれを好んでいるらしく、よく食べてくれる。清正は今日もそれを拵えてやった。

「ほら。」
「あい。」

口元に匙を持って行くと、虎々は小さな口を開けてあむあむと咀嚼した。このお姫様は現金なもので、食事やおやつの最中は非常におとなしいのであった。ねねお手製のよだれかけを汚しながらも、あぅあぅ笑って嬉しそうにお粥を食べる虎々。可愛らしい娘の姿に、清正の頬も緩む。

「…笑うと佐吉にそっくりだな。」

全体的に虎々は父親似であったが、笑顔は三成の幼い頃に良く似ていた。あまり自分に懐いてくれていない我が娘だったが、おとなしければ文句無しに愛らしい子どもだ。

(黙ってれば可愛い…って、そんなとこまで似なくてもな…。)

清正はふっと笑みをこぼし、己と同じ銀色に光る虎々の髪を優しく撫でた。

「たくさん食べて、母上みたいに美人に育てよ。」
「あぃ〜!」

- 68 -


[*前] | [次#]
ページ:






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -