仲良し睡眠不足A


三成と色々な話ができるのが嬉しくて、清正は暇を見付けては借りた書物を開いていた。寝る前に少しだけ読むつもりが、もう1ページだけ、あと1ページだけと読み進めるうちに気付けば朝を迎えていた…ということも少なくは無く、昨夜もそうなってしまった。慌てて布団に入ったのは空が白んで来てからのこと。

一刻と少々しか眠れず寝ぼけ眼の清正が井戸へと向かうと、先客の正則に会った。

「おはよう清正!…って、すっげー隈!!」

余程ひどい顔をしているのか、顔を見るなり正則が驚いている。

「ここんとこ、良く寝れてないみてぇだなぁ…。男前が台無しだぜ?」

心配して顔を覗き込んで来る正則に、何でも無いとだけ言って、洗顔を済ませると清正は井戸場を後にした。しかし部屋に戻る途中、すれ違う家臣や侍女達にも心配されてしまった。

(これは秀吉様やおねね様にも何か言われるな……。)

妙な悩みを抱えてると誤解されたらどうしようか、そんなことを考えながら、清正は寝巻きから藍色の着物に着替えた。



どうしたんだ、大丈夫かと散々に己を心配してくれる主とその奥方をどうにか躱し、清正は縁側に座り込んで溜め息を吐いた。そこへ、静かな足音と共に三成が現れた。

「正則や秀吉様達から聞いていたが、ひどい隈を作ったものだな…。」
「あぁ、別に…。寝不足だったらお前もしょっちゅうなってるだろ?大したことねぇよ。」
「……。」

三成は仕事の虫で、一人で執務を抱え込んではしょっちゅう徹夜で作業を進め、瞳を充血させて隈を作っているのだった。今日は顔色が良いようだが、よく見ると目の下に薄っすらと隈があるのが分かった。清正のセリフに返す言葉も無いのか、三成は黙って彼の隣に腰を降ろした。

「…秀吉様やおねね様が心配されていたぞ。あまり夜更かしをするのはよせ。」
「まさか、お前の口からそんな言葉が出て来るとは思わなかったな。立場が普段と逆だ。」

清正は吹き出して笑ったが、三成は渋い表情を浮かべている。

「お前がそこまでひどい顔をしていることに、俺に少しも責任が無いとは言えん。今日は特別に、お前の仕事を少々肩代わりしてやろう。そんな様子で城内をうろつかれたら家人達が驚くからな、少し休め。」

何とも可愛くない言い方であるが、三成は彼なりに清正のことを非常に心配していた。ましてや自分が貸した本が原因だとなると、罪悪感にも近い何かを感じてしまっているのであった。
清正もそれを分かっているから、三成の物言いに気分を悪くすることなど無い。むしろ、愛しい恋人に身を案じてもらえて嬉しいほどで。

「別にお前のせいじゃねぇよ。それに、仕事代わってもらったらお前が寝れないだろ。」
「俺は慣れている。」
「そんなの良くない習慣だ。」
「構わん。」
「ダメだ。」
「しかし。」
「いいから。」

ちょっとした押し問答が始まり、埒が空かないと思ったのか清正が急にその場に横になった。
…折り目正しく、正座をする三成の膝を枕にして。

「じゃあ、ちょっと昼寝させてもらうとすっか。悪いと思ってんなら、少しの間枕になれ。」

真下でニッと白い歯を見せて笑う清正に、三成は顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせている。

「な…っ、この、貴様……っ!」
「いいだろ、少しくらい。後で起こしてくれ。」

清正が手を伸ばして三成の赤く染まった頬に触れると、三成も観念したらしく口を閉じて恥ずかしそうに視線を逸らした。

清正が目を閉じると、三成はそっと彼の髪を撫でた。やや太めで、少し硬い髪の毛。それを指先で弄りながら、三成は一つの物語を諳んじ始めた。それは誰もが知っているおとぎ話。二人の姿はまるで童と母親のようであったが、三成の優しい手とやや低い声が心地良くて、清正はあっと言う間に眠りへと落ちた。

「おやすみ、清正。」

寝息を立てる清正の頬に、三成は口付けを落とした。



「…ん……?」

清正が目を覚ますと、すっかり日が落ち既に夜と言って良い時分になっていた。体勢は眠りに就いたときと変わらず、変化と言えば真横の柱にもたれて三成がすやすやと寝ていることくらい。
どうやら、三成も清正に釣られて眠ってしまったらしい。…そして、気付けばこんな時間。三成の綺麗な寝顔をもう少し見ていたいのは山々だが、そんな悠長なことはしていられない。清正は慌てて三成を起こした。

「三成、起きろ!もう夜になってる!!」
「何っ!?」



その後三成と清正が、左近や正則にこれでもかとからかわれたことと、昼間の時間を丸々潰してしまったために二人仲良く夜を徹して仕事に励んだことは言うまでも無かった。

「「どうして誰も起こしてくれなかったんだ!!」」



秀・ね・正・左「だって良く寝てたから…。」




      おしまい☆

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