仲良し睡眠不足


薬学や兵法の書、更には民間伝承の話まで、清正の目の前には様々なジャンルの書物がうず高く積まれていた。彼から向かって右側の山は既に読み終わったもので、左側の山は未読のものだ。文字通り書物に埋れながら、清正は自室で読書に没頭していた。ちなみに今読んでいる本は、なんと源氏物語である。
室内で本を読むよりは屋外で槍を振り回す方が好きな清正のこと、この大量の本は、当然ながら彼が所有するものでは無い。では誰のものかと言うと、清正の恋人の、三成のものであった。読書が好きな三成に、「いつもどんな本を読んでいるんだ?」と少しばかり興味を持ったが最後、たくさんの書物を次々に貸し付けられてしまった。その結果がこの本の山である。逐一感想を聞いて来る三成を相手に読んだふりは通用せず、清正は全ての本の読破を強いられている。部屋の中でじっとしているのは正直得意ではないが、恋人と共通の話題があるのは嬉しかった(実は以前、兼続と三成が一冊の書について語り合っているのを見て、少々妬ましいと思ったことがあった)。それに何より、意外と面白い。様々な知識が増えるのは自分自身のためになるし、続きが気になって時刻を忘れてしまうほど引き込まれた物語もあった。今だって、日が傾きかけて手元が暗くなって来ているにも関わらず、清正はページを捲ることをやめない。



「清正。」
「ぉわ!?」

不意に真後ろから声をかけられ、清正はびくりと肩を震わせて驚いた。しかし、振り返らずとも声の主は分かる。

「……三成か。」

振り向くと、案の定すぐ後ろに三成が立っていた。

「黙って入って来るなよ。驚いただろ。」
「何度も声をかけたが?熱心なのは良いが気を付けろ。」

清正は集中し過ぎると、一切周りが見えなくなるタイプだ。彼は「悪い」、と一言謝り本を持ったまま三成に向き直った。清正の手にある書物を見て、三成が口を開く。

「源氏物語を読んでいるのか。」
「ああ。…でも、何で恋愛ものなんか読まなきゃならねぇんだよ。医学書とか軍記物語とかなら分かるが。」
「教養のうちだ、馬鹿。それはかの上杉謙信公の愛読書でもあるのだぞ。」
「マジかよ…。」

清正は意外な事実に目を丸くした。あの軍神は、見た目に反して恋愛小説が大好きなロマンチストなのであった。

「何だかんだ言いながらもだいぶ読み進めているではないか。おねね様似の稚児をかどわかして来たりなどするなよ。」
「しねーよっ!!」
「冗談だ。」

清正をからかって、くすくすと笑う三成。今日は機嫌が随分と良いようだ。それに釣られるように、清正も笑顔になった。

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