意味が分かると怖い話A


翌日、昨日の雨はすっかり上がり、朝から青空が広がっていた。
だが、今日の気持ちの良い晴天に、全く似つかわしくない出来事が昨晩このマンションで起こった。

二階の一室で、強盗殺人事件が起こったのである。殺害されたのは50代の夫婦で、家の中の現金、クレジットカードや預金通帳などが全て持ち去られていたらしい。被害者の二人はそれはそれは無惨な殺され方をされ、現場となった部屋はベテランの刑事でも目を覆いたくなるほどだったという。

今朝方三成と清正はけたたましいサイレンの音で目が覚めて、ニュースを見て震撼したのであった。
三成は朝食を食べる気になれず、コーヒーだけを飲んで済ませた。ショックはショックだがこれを理由に会社を休むわけにはいかないので、ネクタイを締めて出勤の準備をする。

「三成、今日から帰り迎えに行くから。何なら車出して会社まで行ってもいいし。」

昨夜の事件を受け、清正は三成の身を案じてこれから毎日迎えに行くと提案した。三成がそれを拒否するはずは無く、素直に首を縦に振ったのだった。



「さて、そろそろ行くか。」
「ああ。」

二人は一緒に家を出るのが常で、今日も例外では無かった。ついでにいえば、いってきますのキスをする恥ずかしい習慣もある。
少々混乱していた三成だったが、出勤までの時間、ずっとソファで清正に抱きしめられていたので彼の気分は大分落ち着いたようだった。

「すみません。」

二人がエレベーターの前まで行くと、泣き黒子のある黒髪の、スーツ姿の若い男に声をかけられた。

「私県警の者なのですが、昨夜の事件について何かご存知のことはありませんか?」

そう言って男は、警察手帳を見せた。

「何か物音がしたとか、見慣れない人物を見たとか、そんな些細なことでも構わないので…。」

捜査中と思われる刑事の顔は必死だ。三成はふと、昨日自分に衝突して来たビニール傘をさした男のことを思い出したが、それを口にすることは無かった。

「いや、申し訳無いが俺達は何も知らない。」

ここで彼に付き合っていたら確実に遅刻してしまう。今日は大事な会議が朝から入っているのだ。

「協力できなくて、すまない。」
「あ、いえ…。」
「聞き込みだったら、駐輪場のとこなんかいいんじゃないか?オバさん達が集まるから。じゃあ俺達、急ぐんで。」

二人は刑事に軽く頭を下げると、エレベーターに乗り込んでその場を後にした。



その日の晩、清正と三成は二人連れ立って駅から帰って来た。一緒にスーパーで買い物も済ませて来たらしく、清正が持っている緑色のエコバッグからはネギの頭が飛び出していた。
ついでに二人は、書店の前で無料の住宅情報誌をもらって来た。あんな凄惨な事件があった場所にずっと住むのもちょっと気分が悪い。良い物件があれば、引っ越すのもいいかも知れないと話していたのだった。

三成が夕飯の準備をしながら何の気無しにテレビを点けると、ちょうどニュースが始まったところだった。
トップニュースはここのすぐ近くで起こった例の事件で、三成は僅かに顔をしかめた。だが、ニュースキャスターの伝えた内容は、彼を安堵させるものであった。
犯人が捕まったのだ。

「早く捕まって良かったな。」
「ああ、一安心だ。」

清正もほっとしたのかテレビ画面を見ながら安堵の息をこぼした。
しかし、容疑者の顔写真を見た瞬間、二人は凍り付いたかのように動きを止めてしまった。


…見覚えのある顔。

画面に映し出された泣き黒子のある人物は、今朝声をかけてきたあの刑事だ。


『男は、現場近くの公園にいたところを逮捕されました。逮捕された際男はナイフを所持しており、取り押さえようとした警官が切り付けられ……』

時が止まってしまったかのような部屋に、ニュースを淡々と読み上げるアナウンサーの声だけが響く。



あの男は、己の犯行を目撃した者がいないか、己に繋がる有力な情報を持つ者がいないか、証拠隠滅を図りに来たのだった。

…凶器を、隠し持って。



あのとき、昨夜駐車場で見た男の話をしていたら、彼らはもしかしたら……。




ーお終いー

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