意味が分かると怖い話


電車を二回乗り換えて、帰宅ラッシュの人混みに揉まれながらようやく辿り着いた最寄りの駅。そう体力自慢というわけでもない三成は、ホームに降りると小さく息を吐いた。仕事帰りの満員電車ほど、疲れを増幅させるものは無いだろう。
地下鉄の改札から地上の出口へと向かうと、何やら地面を打つ雨の音が聞こえてきた。「今日は夕方から雨が降りますので傘のご準備を」と言う気象予報士の忠告を、朝きちんと聞いてきたので三成の鞄の中には折り畳み傘が入っている。三成はその傘と一緒に、携帯電話を取り出した。同棲中の年下の恋人は、帰るコールをしないと怒るのである。普段ならば会社を出たときにメールなり電話なりをするのだが、今日は忘れてしまっていた。携帯を開くと、案の定彼から「今どこにいるんだ」とメールが入っていた。三成は「駅。」とだけ返信し、ブルーの傘を開いて家への道のりを歩き出した。駅から自宅のマンションまで徒歩で10分ほど。大した降りでは無いので、あまり濡れずに帰れるだろう。

築10年の、古くは無いが新しいとも言えない七階建てのマンション。そこの五階の南側の角部屋が、三成と彼の恋人、清正の家である。2LDKの間取りは、二人で住むには十分過ぎる広さであった。
居住者専用の駐車場を裏から突っ切るとエントランスへの近道になる。普段ならばそこは通らないが、少々雨が煩わしいので今日はショートカットしてしまうかと三成は暗い駐車場に足を踏み入れた。

「うわっ!?」

ばしゃっと水が跳ねる音がしたかと思うと、車の影から飛び出して来た男に勢い良くぶつかられた。三成は衝撃で傘を落とし尻餅をついてしまったが、衝突して来た男は彼に一瞥もくれずそのまま走り去ってしまった。

「何だあいつは…っ!」

このマンションの住人であるならば後で文句を言ってやろうかと思ったが、生憎雨の降る夜道では顔が判別できなかった。分かったことと言えば、ビニール傘をさしていたということくらい。



「ただいま。」

いささか乱暴に部屋のドアを開けると、すぐさま清正が顔を出した。たびたび残業がある三成と違い、清正の仕事は定時で上がれることが多い。職場が近いこともあり、大体は清正の方が帰りが早いのだった。その分、三成の方が高給取りではあるのだが。

「おかえり。…ぅわ、びっしょりじゃねぇか!どうしたんだよ!?」

腰から下がずぶ濡れである三成に、清正は慌てて着替えとタオルを渡した。三成はそれを受け取ると、不機嫌丸出しの顔でこんな有様になってしまった理由を話した。

「…そりゃ災難だったな。」
「まったくだ。何て失礼な奴なのだ。このジャケット、気に入っていたのに…!」

裾の方が汚れてしまった紺色のジャケットを見て、三成の怒りは尚も冷めやらない。

「そこ掛けとけよ。明日クリーニングに出しといてやるから。そんなことより、風邪引く前に早く風呂に入っちまえ。もう沸いてると思う。」

そのジャケットは、以前清正が三成に見立てたものだった。それを汚されて憤っているのだから、清正としては吝かでは無い。しかしその気持ちを表に出しては三成の機嫌はより悪くなるだろう。

「とにかく、お前に怪我が無くて良かった。」

なのでそう言って、頭を撫でてやるに留めておいた。三成もそれに多少気分を良くしたようで、小さく頷いてから風呂場へと向かった。

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