めかくし、しあわせ、あいしてる。


賑やかな町から遠く離れた、山間にある小さな集落。そこは娯楽や珍しいものは何も無いが、周囲を緑に囲まれ近くにはきれいな川も流れていて、穏やかな空気の流れるのどかで美しい村であった。



そんな村を、先日激しい嵐が襲った。あちこちの家で浸水したり雨漏りをしたり戸などが壊れたりの被害が出て、この村唯一である大工の清作は、その修繕に大忙しであった。

「おお、見事に元通りじゃないか!いやぁ、助かったよ。」
「屋根の他に浸水して傷んだ床も、直しておきましたから。」

清作は非常に腕が良く、丁寧なのに仕事が早かった。今回の依頼主も大満足の様子だ。喜んでもらえたのが嬉しくて、清作も笑顔を返した。
彼は、逞しい体つきに凛々しく精悍な顔立ちをしていて、大工の腕前云々とは違う意味でも評判の青年であった。

「清作は気が利くなぁ!これ、お代金。」
「ありがとうございます。」
「ちょっと待ってお前さん!清作さーん!」

清作が依頼主の、人の良さそうな初老の男性…名を平八と言う人物からお代を受け取ったときに、家の奥から彼の妻が慌ただしく出て来た。

「清作さん、これも持って行って!」

彼女の手には、大きな大根が二本。

「さきちゃん、おめでたなんだって?栄養付けなきゃいけないよね!本当はお代に色を付けたかったんだけど、うちも貧乏だからさぁ。これで勘弁しておくれよ!」
「い、いや…そんな…。」
「何だって!?そりゃめでたいな!清作、何だって早く言わないんだよ。ちょっと待ってな、ついでに芋も持って行くといい!」

さきとは、清作の妻の名前だ。ついこの間妊娠したと分かったばかりなのだが、随分と耳の早いことであった。
彼女とやや子のためにあれもこれもと持たされて、清作の両手はあっと言う間にいっぱいになってしまった。

「すみません、こんなに…。」

たくさんのお土産をもらって、清作は深く頭を下げた。

「いいんだよ、さきちゃんによろしくね。」
「ありがとうございます。あいつも喜びます。」
「しかしお前はいいなぁ、あんなに綺麗な嫁さんもらって。戦火から逃れて来たなんて言ってるけど、お前達実は駆け落ちなんだろう?本当は、どこのお姫様をさらって来たんだよ。」

平八にからかわれながら小突かれて、清作は苦笑いを浮かべた。さきは別に、どこかの国の姫君などではない。
(…それに準じるくらいの秘密を、この夫婦は抱えているけれど。)

手を振りながら見送ってくれる二人に、清作はもう一度頭を下げて帰路に着いた。大量の頂きものが少々重たいが、これを見たらさきも喜ぶだろうと彼の足取りは軽かった。




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