あの子が欲しい!A


まず三成(と吉継)がスタートし、その百秒後に他の者が駆け出した。城内を駆けて回る面々に、侍女や家来達は目を白黒させて驚いていた。

「あいつぁ城が壊れたりするのを嫌うだろうから、逃げ回るとしたら屋外か?」
「狭い屋内でちょこまか動くって作戦もあるんじゃない?」

単純に脚の速さでは三成に敵わないために、各々様々な策を巡らせながらターゲットを狙う。しかし、追い付けなかったり寸でのところで吉継が現れ空へと逃げられてしまったりと、太陽が高く登り始めても誰も三成を捕まえることはできなかった。

「くっそ!三成め、ちょろちょろと…っ!」
「アンタ諦めたら?」

重たい鉄球を引きずりながら走り回り、汗だくになってぜぇぜぇ言っている官兵衛の肩を、佐助がぽんと叩いた。可哀想だが、どう考えても官兵衛では三成を捕まえられないだろう。

「あーあ、楽勝だと思ったんだけどなぁ…。」

己に繋がれた鎖に躓き、転んだ官兵衛を尻目に、佐助は高く跳躍して城の屋根へと登った。忍びをここまで翻弄するとは、と彼は内心感服していたのだった。



「もう間もなく時間だな。」
「われらの連携があれば数刻ばかりを逃げて回るなど、容易いことよ。」

高い塀の上に腰掛けている三成と、そのすぐ近くに浮かんでいる吉継。仲良く並んだ二人の表情には余裕が見えた。

「これで明日から私に平穏が戻る。」
「左様……ごほ、ごほっ!」
「刑部!!」

吉継は三成の勝利が間近になって、安堵した途端に咳込んだ。それを見て本人以上に顔色を変えたのは三成だ。

「もうこちらは大丈夫だ、貴様は部屋に戻って休め。」
「何、これくらい何でも無い。」
「ダメだ!」

吉継がいくら平気だと言っても、三成は聞かない。彼の頑固さを誰よりも知っている吉継は、観念するより他に無かった。

「……われは優しい友を持ったものだ。ならば一足先に休ませてもらうとしよう。しかし三成よ、終了するまで油断をするでないぞ。」
「分かっている。そんなことより、貴様は早く横になれ!」

薬を飲み忘れるなよ、と付け加えて、三成は吉継を下がらせた。三成は父親のような兄のようなこの親友をとても大切に思っていて、こと病を患う彼の体調のこととなると、過敏な反応をするのであった。

周囲に誰もいないことを確認し、三成は塀から飛び降りた。そして難無く着地。

……するはずが。その体は、誰かに受け止められたのだった。

「さ、真田!?」
「三成殿!やっと見付けた!」

三成を受け止め、所謂『お姫様抱っこ』をしている人物は、今朝から姿を見せていなかった幸村であった。周辺を見渡して人がいなかったからと飛び降りたが、まさか真下に誰かいようとは。三成らしくないミスであった。にぱっと笑う幸村とは対照的に、三成は目を見開いて口をぱくぱくさせている。

「何やら騒々しいですな。これは一体?」
「あ"〜っ!大将!!後から来たのにずるいよっ!!」
「真田どん、いつの間に!?」
「…??」

烏を使い空から降りて来た佐助と、「ダァ〜ッ!」と池から飛び出して来た義弘が、事情を把握していない幸村に今の状況を説明した。

「と、いうことは!三成殿は某のもの!?」
「真田、いい加減降ろせっ!」

抱き上げられている状態が屈辱的なのか、三成は幸村の腕の中で暴れた。しかし幸村は意にも介さぬ様子で、逆に三成の痩躯を強く抱きしめた。

「…貴様、最初からいなかったのは策略か?」
「若虎の兄ちゃんは不参加じゃなかったのかよ…。」
「何故じゃぁあ〜っ!!」

元就、元親、官兵衛もこの場にやって来て、この『遊び』が幸村の勝利にて終わったことを知ったのだった。

「三成殿、ではまずは一緒に団子を食べに参りましょうぞ!その後はあんみつでも!遠乗りにもご一緒頂きたい!」

…幸村の無邪気な要求に、その場の全員が安堵の息を吐いたのは言うまでも無い。



「三成殿!某の髪を結んで下され!」
「三成殿!一緒に湯浴みを!お背中流しまする!」
「三成殿!今宵は一緒の褥で眠りましょうぞ!後で枕を持って伺うでござる!」

その後、甘え上手な幸村は、連日子どものようなお願いを三成にしていた。三成も三成で何だかんだとそんな彼を可愛がってしまい、二人の関係はぐっと親密なものとなった。
佐助や吉継達も、最初はそれをほほ笑ましく見ていたものの、ある朝三成の首筋に赤いうっ血の痕を見付けて幸村に底知れぬ恐ろしさを抱いたのだった。

知らぬ間に、凶王様は紅蓮の虎の手に陥落していた…という訳だ。



「三成殿〜っ!」
「こら真田、引っ張るな!」
「えへへ、ぎゅ〜でござる♪」
「…仕方の無い奴め。」

幸村のあの態度が、天然なのか計算であったのかは……誰も知らないのであった。




おしまい!

- 56 -


[*前] | [次#]
ページ:






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -