あの子が欲しい!


「なぁ石田、一緒に船遊びしねぇか?今日の天気なら、絶対に気持ちいいぜ!」

「三成どん、オイと一緒に酒ば飲まんね!パーッと飲んで、煩わしいことは忘れんしゃい!」

「石田の旦那、今日こそはきちんと三食食べてもらうからね!食べやすいよう小ぶりのおにぎり作って来たから。」

「石田、我と共に日輪を拝むことを、特別に許してやろう。来い。」

「三成殿、某おいしいお茶屋さんを見付けたでござる!良かったら今から一緒に!」

「三成、いい加減この枷を外せ!そしたら言う通りに働いてやるから!」

上から、元親、義弘、佐助、元就、幸村、官兵衛。
彼らは三成を放ってはおけないらしく、常に誰かしらは三成の側にいて、好意を持って構い倒していた(その好意が、分かりづらい者もいるのだが)。

ー貴様ら!鬱陶しいっ!!
そんな怒号が聞こえて吉継が視線を遣れば、そこには自分の親友と……そのお取り巻きの姿があった。

「今日も三成の周りは騒がしいな…。やれ、いつからこんなことになったやら……。」

吉継は溜め息混じりにそう零した。取り巻き達は、三成に何を言われても何度蹴散らされても、決して懲りもせずめげもせず彼の側を離れぬのであった。いつしか日常となったその光景を眺めながら、吉継は動力が全くの謎である輿に乗り、ふわりと浮かんで悠然とその場を後にした。


「刑部っ!!」

どうにかまとわり付く男達を撒いて、三成が吉継の私室へと駆け込んで来た。彼にしては珍しく、息が上がっている。真田の忍びから逃げるのに苦労したのだろうか、と吉継は手にした筆を置きながら考えた。

「どうした三成。」
「どうしたもこうしたも無い。奴らがしつこいのだ。何を食えだの何処へ行こうだの。おちおち執務もしていられん!」

三成からは疲労の色が見えはするものの、そう辟易した様子は無さそうだった。それを見て吉継は喉の奥でククッと笑った。

「刑部、何がおかしい。」

ぎろりと睨み付けられ、吉継は小さく咳払いをして誤魔化した。

「あい、済まぬ。なぁに、ぬしが他に慕われる総大将となりわれも嬉しくてな。」
「…ただの迷惑だ。」

そう言う三成の口調に棘は無く、困惑して俯くその表情は愛らしくさえあった。吉継は決定的となった愛する友人の変化を素直に好ましいと思い、再び笑みを浮かべた。

「そうだ、われにいい考えがある。三成、少しばかり遊びに付き合え。」
「?」

吉継が発案した『遊び』は、西軍の武将達を巻き込み、早速翌朝行われることとなった。

…この『遊び』に勝った者は三成を好きにできる。だが、勝者が三成となった場合は三成につきまとうのを今後一切やめる、という条件の下で。



これのルールは簡単。三成を捕まえればいいという、早い話が鬼ごっこだ。相手は元親、元就、官兵衛、義弘、佐助と複数で、一見三成が圧倒的に不利に思える。しかし彼は驚くほど俊足な上に、大坂城の敷地内をステージとして用いるため地の利がある。何より吉継が味方に付いているので、移動範囲が空中にも及ぶ。いっそハンデなどは全く無いのであった。
今から正午までに、誰かが三成を捕まえればその人物が勝者となり、正午まで逃げきれれば三成の勝ちとなる。

「よっしゃ!絶対勝って、石田を四国に連れ帰ってやるぜ!」

屈伸をしたりアキレス腱を伸ばしたりして、準備万端の元親。

「ふん、石田は我が安芸へと連れ帰るのだ。」

元就は相変わらずの仏頂面をしているが、その中には静かな闘志が見える。

「絶対に三成を捕まえて、この枷ともおさらばだっ!」

鉄球を引きずって勝てる算段があるのかは置いておいて、繋がれた鎖をじゃらっと鳴らし、官兵衛はやる気十分だ。

「一度でいいから、三成どんが潰れるまで一緒に酒を飲んでみたいもんじゃ!」

三成と共に酒を飲みたい、ただそれだけの理由でこの鬼ごっこに参加した義弘。彼は朝から酒を煽り、随分と機嫌が良さそうだった。

「石田の旦那をどーこーしようって気は無いけど、負けたらもう構っちゃいけないんでしょ?なら、負けられないね。」

何でも無い風を装う佐助だが、その口元には不敵な笑みが浮かんでいる。


「刑部、真田はいないのか?」

ちらっと周囲に目を遣り、三成はあの真っ赤な衣を纏った青年がいないことに気付いた。例に漏れず幸村もまたお取り巻きの一人であり、良く懐いた子犬のように三成の後をついて回っているのであった。

「あやつならば暗いうちから走り込みだと言って、元気に駆けて行きよったぞ。何だ三成、真田がいないのが残念か。」
「…だ、誰がだ!勘違いするな!奴は人畜無害だからな、せめて負けてやるならば、奴がマシだと思っただけだ!!」

にやりと笑った吉継に、三成は顔を真っ赤にして怒鳴った。

「何でもいいから、早く始めてくれよ!」

官兵衛の催促を受け、かくして三成争奪戦の鬼ごっこが始まったのであった。

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