温かな繭B


「どうした佐助!」
「大将、早く早くー!」
「や、やっぱり嫌だ!着替える!」

どこかのお姫様と言っても通じるほどに美しいお嬢を、しっかりと捕まえたままで大将を手招きする。
彼女の姿を認めた瞬間、大将はぽろんって落ちちゃうんじゃないかってくらい目を真ん丸にした。

「さ、佐助ぇ!そなた天女様を捕まえたのか!?何と無礼な働きを…っ!!」
「はぁ!?天女!?」

大将は俺様の手からお嬢を奪うと、突然その場で土下座を始めた。

「某の忍びが無礼な真似を致し申し訳無うございます!天女様、何卒ご容赦下され!!」
「貴様何を言っている!?」
「どっからどう見ても、この人は石田のお嬢でしょおが!」

俺様とお嬢で、畳が傷むからと土下座をやめさせた。当の大将は、まだぽかんとしている。

「…は、へ……??」

溜め息を吐きながらお嬢の様子を盗み見ると、眉間にシワを寄せて頭痛を堪えているようだった。

「つ、つつつつつまり、三成殿は天女だったと言うことか!?」
「「は!?」」
「某、そうとはちっとも気付かず…!!三成殿は、いずれ天に帰られるのでござるか!?し、しかし…!某と契ってしまいました!もう天には戻れぬとかそんなことには…!?いいや分からぬ!佐助!!今すぐ羽衣を隠せぇえええ!!!」
「落ち着け馬鹿大将っ!!」

パァン!
やべ、主の頭はたいちまった。ついでに馬鹿っつっちまった。

「…幸村……。私は近江国の石田村で生まれた人間だ……。」

…お嬢が引いている。『天女とかねーよ』って顔してる。
だが、

「ならば三成殿は、どこにも行きませぬな!?」

そう言って大将は、勢い良くお嬢に抱き付いた。

「某は三成殿と離れたくない。そなたが本当に天女ならば、羽衣を燃やしてしまってでも天に帰したくない……。」
「幸村…。」

大将は相変わらず熱烈だ。そしてそれに絆されてしまうお嬢。

「私が天女などと、馬鹿馬鹿しい。…だが、もしそうだったとしても……私は貴様を裏切らない。万一羽衣を見付けたら、そんなものは灰にしたらいい。」

大将の背中に腕を回すお嬢。優しく笑う彼女は、きっと本物の天女様よりずっとずっと綺麗だろうと思う。



時々うっとおしくもなるんだけど、幸せそうな二人を見ることが俺様の幸せだ。徳川の旦那にどんな思惑があるかなんて知らないけど、あの人達の平穏を脅かすものは何であろうと排除するのみ。大将とお嬢のためなら、堅固で有名な小田原城だっていくつでも落とすし、やたらめったらいかつい戦国最強だって粉砕してやる。

あの狸に生かされてるのは少し気に入らないけど、俺様この暮らし結構気に入ってるからね。大将とお嬢と……二人のややを待ちながらゆるーく暮らすのは案外幸せ。




武士の誇りとか、もう忘れてさ。アンタ達はもう、心を痛めなくていいんだよ。何も心配しなくていい。

アンタ達を包むこの小さい繭は、俺様が守るから。






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