温かな繭A


「…ん……?」

先に目を覚ましたのはお嬢。のそりと起き上がり、目を擦る姿が愛らしかった。

「おはよ、お嬢。」

俺様がニカッと笑って彼女の頬に触れると、お嬢も少しだけ笑ってくれた。そして俺様の手に擦り寄って来る。さっきも思ったけど、この人本当に猫みたい。

「生きてる、な…。」

お嬢は、大将と俺様限定で、日に何回か自分の手や頬、体の一部を使い体温測定みたいなことをする。温もりを感じると安心するのだそうだ。だから俺様達も、積極的に彼女に触る。生きているよ、と伝えるために。

ここに来て初めて迎えた冬の、ひどく冷え込んだ朝のこと。指先や足先の感覚を無くしたお嬢が気が狂ったように泣いて叫んだ姿を……大将も俺様も忘れはしない。

お嬢とのひと時のふれあいを楽しんでいたら、いつの間にやら起きたらしい大将に物凄い顔で睨まれた。

「朝餉、用意してあるよ。着替えて顔洗って、それから来てね。」

これから二人は、朝の儀式を始める。俺様が勝手に『儀式』だなんて呼んでるんだけど、要はひとしきりいちゃつくってこと。ちなみにこの儀式は、朝、昼、夜と執り行われる。
さて、こんなときは早々に退散するに限るよね。おつゆが冷める前に終わるといいんだけど……。

「三成殿ぉ〜。」
「ちょ…っ、幸村!やめろ、どこを触っている!」

…はいはい、聞こえない聞こえない。




自由が利かない大将達は、お兄さんからの仕送りを頼りに生活している。しかし、それのみでも暮らしに困ることが無いのは、実は徳川の旦那が密かに金や着物、日用品などを都合してくれているからであった。勿論、このことは大将にもお嬢にも伏せてある。

「たーいしょ〜!!」
「離せ猿飛っ!!」

新しく徳川の旦那から送られて来た着物を、早速お嬢に着せてみた。これはお嬢に対する裏切り行為とも言えるかも知れないけれど、今回ばかりは目をつぶってもらいたい。

だってこれ、女物の着物だったんだもん。着てるとこ見たいし!

これまでは、お嬢の性格を考えてか袴や着流しばかりを寄越して来ていたし、俺様が用意するときもそうしていた。しかしどういう心境の変化やら、あの天下人は此度は女物の着物を一式送って来たのだった。
藤色をしたそれは、華やかとは言い難いものだったが、お嬢に良く似合っていた。本人を目の前に測ったような丈と、彼女の美しさを引き立てる色合いに柄。



…多分、

(徳川の旦那はお嬢をまだ愛してる。)

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