温かな繭


1600年9月15日。日の本を東軍、西軍にと二分した大きな大きな戦は、小早川秀秋の裏切りが引き金となり、西軍が敗北。決着は僅か半日足らずでついたと言う。
後に『北の関ヶ原』と呼ばれた長谷堂での戦いも、その報を聞いて上杉軍は撤退を余儀なくされた。上田の地にて徳川の援軍を食い止めることに成功した真田軍だったが、関ヶ原で戦っていた西軍総大将・石田三成の元への救援は間に合わなかったのであった。

その後上杉家は領地を会津120万石から米沢30万石に大幅に減封され、真田幸村は兄・信之の嘆願により命だけは助けられたものの九度山に幽閉されることとなった。他にも西軍に汲みした者は、厳しき沙汰を免れられなかったそうだ。

そして件の戦で親友の大谷吉継と腹心の島左近を喪った三成は、重罪人とされ京都の六条河原で首を刎ねられ死んだ。



……これが、世間で言われている関ヶ原の戦いの顛末だ。
しかし、本当は少し違った。


石田三成は生きている。


徳川家康は彼女をどうしても殺すことができず、影武者を立てて処刑したように見せ掛けたのだった。そして本物の三成を、幸村と共に九度山に閉じ込めた。

ーそれから、幾許かの時が流れた。




「大将、お嬢!朝だよー!」

俺様の一日は、真田の大将と石田のお嬢を起こしに行くことから始まる。スパン!と小気味好い音を立てて襖を開けると、布団の中で大将とお嬢がまるで子猫や子犬のようにくっついて眠っていた。胎児みたいに丸まったお嬢を、大将が守るかのように包んでいる。二人のあどけない寝顔に、知らず頬が緩んだ。
大将とお嬢は、言えば『恋仲』ってことになるんだろうけど、この二人の関係は、安易に一言でくくれるようなものでは無い。

大敗を喫し、何もかもを失って最早殺されるだけとなったお嬢と、盟友を守ることは叶わず僻地で幽閉されると聞いた大将。 二人共、元々性根が優しいのだ。信念のためとは言え、たくさんの血飛沫を浴び命を散らして来た彼らの心は、疲弊して擦り切れる寸前だった。そこに来てこの現実。大将にもお嬢にも、絶望しか無かった。


敵と死体に囲まれて、生きた心地などしなかった女と、守れなかった、もう二度と会えぬと思った相手を目の前にした男。二人が再会した夜に熱を分け合ったことを、誰が咎められるだろうか。


絶望の淵で掴んだお互いの手。きっかけは、ただ温もりが欲しかっただけだったのかも知れない。だけど今は、二人の結び付きを何人たりとも断ち切ることはできないだろう。
そう言えば、お嬢の友達が、二人の魂が似てるって言ってたな。

(こんなことにならなくても、きっとあの人達は惹かれ合ってたんだと思うけど。)

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