子虎と侮るなB


 三成は存外子供が嫌いでないのか、書物を読んでやったり庭へ連れて行ったりと、良く清正の面倒を見ていた(とは言え体が子供になっただけで中身は大人のまま変わらないのだから、必要以上に構ってもらわずとも良いのだが)。
「お前は読み書きも十分にできるし、齢の割りになかなかしっかりしているな。将来は豊臣を支える柱の一人となれるかも知れん。」
 優しい表情で三成がチビ清正の頭を撫でた。照れくさいが、三成にこうしてもらえるのは、正直嬉しかった。


 (秀吉様が言っていたように、思い切って甘えてみようか…。)
 意を決して、清正は三成に抱き付いた。
「何だ、やはりまだまだ甘えん坊だな。」
 流石に三成の細腕では抱き上げてもらうことは叶わなかったが、嫌がられることや振り払われることはなく、そっと抱き締めてくれた。自分からくっついたのだが、心臓が爆発しそうだ、と清正は思った。



 「お虎、少し汗をかいているな。風呂に入るか。」
 三成が汗で額に張り付いた前髪を、指先で撫ぜる。何せ子供の体だ、新陳代謝は半端じゃない。彼女は早速二人分の手ぬぐいや着替えを用意した。
「ひ、一人で入れる!」
(流石にそれはまずいだろ!)
 清正は逃げようとしたが、すぐに捕まってしまった。
「世話役を任された以上、お前に何かあっては俺の信頼に関わるのだ。危険が無いよう、一緒に入るぞ。」
「嫌だぁ〜!!」
 清正の着物を掴むと、引きずるようにして風呂場へと連行して行った。途中秀吉と擦れ違うと、「三成と風呂か、ええの〜。」とにやにやしていた。


 脱衣場に着くと、清正は思わず三成に背を向けた。背後から、しゅるしゅると帯を解く音と、僅かな衣擦れの音がした。

(これはこの際だ!オイシイ状況を黙って味わおうじゃねぇか!)

 清正は男らしくも邪な決意をしたのだった。



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