君と、夏祭りB


「真田、浴衣が崩れているぞ。」

三成に指摘され幸村が自分の格好を見てみると、袷がびろんと広がり、随分とだらしなくなってしまっていた。元より着慣れぬ物の上に、ちょこまか動いたり、家康を追い払うために暴れたりもした。着崩れるのも無理の無いことだった。

「せっかく佐助に着付けてもらったのに…。」

実は、幸村の浴衣から帯からを用意してくれたのは佐助であった。張り切って自分をプロデュースしてくれた幼馴染に申し訳無いと思い、幸村はしょんぼりと襟を手で押さえた。

「やはり、着付けは猿飛か。来い、直してやろう。」

三成は幸村の手を引くと、参道から外れて木々の影へと連れて行った。ここならば立ち止まっても他人の邪魔にはならないし、当然浴衣を直していても誰の目にも触れぬし迷惑はかからないだろう。提灯の明かりから離れて、少しだけ薄暗いがそれはしょうがない。

「三成殿は、浴衣の着付けもできるのですな!さすがでござる!」
「別に大したことは無い。しかし、半兵衛様から教示頂いたことは名誉だと思っているがな。ああ、半兵衛様…。半兵衛様から頂いたこの髪飾り、命より大切にしております……。」

尊敬して止まぬ人物に思いを馳せ、うっとりとしている三成に幸村は苦笑いを浮かべた。こうなると三成は、しばらく帰って来ない。
ふと幸村は、「ん?」と思った。三成に浴衣を直してもらうと言うことは、三成の前で一度脱がねばならぬと言うこと。

(は…恥ずかしいっ!)

「三成殿、やはり直さずとも結構でござる!」

幸村はそう言うと、三成の肩を掴んで精神世界へ旅行を強制的に終了させた。

「何を言う、みっともないだろう?」
「いえいえ、某は女子ではありませぬから平気でございます!」

「駅前の大通りに出るなら絶対こっちの裏を通って行った方が近いんだって……うわっ!?」

ドン!

「わぁあ!?」
「ぅあ…っ!」

三成が幸村の臙脂色の帯を掴んだ瞬間のことだった。幸村は背後からやって来た何者かに衝突されて、三成を巻き込んで倒れてしまったのである。

「いってて……。」
「おい前田、大丈夫かよ?」
「暗いんだから気を付けろよ…って、真田に石田じゃねぇか!」
「前田殿、長曾我部殿、政宗殿!」

幸村にぶつかって来た人物は、同級生の慶次だった。その後ろには、元親と政宗もいる。しかし何故か三人は、幸村達を見るなり固まってしまった。

「……Ah〜,Sorry.俺達急いでてな。」
「コ、コンビニまで近道しようとしてたんだよ。邪魔して悪かった。」
「ゆっきーがそんなに大胆だなんて知らなかったよ。ごめんよ、じゃあ、ごゆっくり!」

そう言うと慶次達は、植え込みの中を通ってそそくさとどこかへ消えてしまった。三成は頭に「?」を浮かべているが、幸村は自分の体勢を見て彼らの態度の理由を悟った。

三成を、乱れた着衣のまま組み敷いているのだ。加えて言うなら、薄暗くて人気の無い場所で。
妙な風に勘違いされても、仕方が無かったかも知れなかった。

「は、はは、ははは破廉恥ぃいいい〜っ!!!」

幸村は三成の上から勢い良く飛び退くと、慌てて彼女を抱え起こした。それからマッハで土下座の体勢に入り、地面に激しく額を打ち付けて先ほどの非礼を詫びた。

「申し訳無うございました!!なんて破廉恥な!無礼をお許し下され!!そ、某!破廉恥行為などしたいと決して思ってはおりませぬゆえ!嫌いにならないで下され三成殿ぉ!!」

今にも泣き出しそうになりながら謝罪をする幸村に対して、なんと三成は笑い出した。

「……ふっ、はは、ははははっ!」

…しかも、結構な高笑い。こんな三成を見るのは初めてで、幸村はぽかんとしてしまう。

「今のは事故だろう。これくらいで私が貴様を見限るとでも?」

笑い過ぎた三成が、涙を拭いながら言う。

「しかし、貴様といると退屈しないな。」

薄暗い中だったが、幸村には三成がほほ笑んだのがはっきりと見えた。急に胸がうるさく騒ぎ出して、この鼓動が彼女に聞こえないかと心配になった。

「さて、貴様の浴衣を直して仕切り直しだ。」
「御意に!某、射的や金魚すくいもしたいでござる!」

夏祭りの賑やかな空気をほんの少し遠くに感じながら、ほほ笑み合う二人はとても良い雰囲気だった。



「先ほどのチョコバナナだが…。秀吉様と半兵衛様にお土産として買って帰りたい。持ち帰りにはできないだろうか?」
「うーん……。あ、そうでござる!焼きそばの屋台からパックを一つ分けて頂いて、それに詰めて帰ると言うのは?」
「なるほど、貴様にして良いアイディアだ。」
「某にしては、とは!?」

どちらとも無く手を繋ぎ、人混みの中を歩く二人。
笑い合う幸村と三成の声は、軽い下駄の音や、調子の良い祭り囃子の音、子ども達のはしゃぐ声などの騒々しくも賑やかな夏の音色の中に溶けていった。





帰り際、「……貴様にならば、破廉恥行為をされても構わない。」と言った三成に、幸村が盛大に鼻血を噴いたのだが……それはまた、別のお話である。



おしまい!

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