君と、夏祭りA


幸村が、今度こそ!と思い三成の左手に自分の右手をそろそろと伸ばす。

「三成〜ぃ!!」

だがそれは、何者かの大きな声により触れるまであと数センチ、と言ったところで阻まれてしまった。
二人が声がした方を振り返ると、そこにいたのは山吹色に家紋の柄入りの、ちょっと派手めの徳川家オリジナルの甚平を着た家康だった。三成に絶賛片想い中の彼は、しょっちゅう三成の前に現れては熱心なアプローチをしている。幸村という彼氏がいるにも関わらず、だ。

「家康!?」
「三成、浴衣、凄く似合ってるな!可愛いと言うか美しいと言うか……色気もあって、とにかく最高だ!!」

毛嫌いしている男の登場に、三成はあからさまに顔をしかめた。何やら浴衣姿を褒めちぎられているが、全然嬉しくない。しかし家康は、彼女の表情を気にすることなく続ける。

「浴衣を美しく着こなす絶対条件!それはメリハリの無いボディ!ズバリ“貧乳”だ!!三成、ワシはお前のそんなところも大好きだぞ!!」
「死ね家康ぅうううう!!!」
「最低ですぞ、徳川殿ぉおおおお!!!」
「ぐわあぁ!!」

幸村・三成の渾身のツープラトン攻撃を受け、家康は吹っ飛ばされて倒れ伏した。彼を避けるようにして人垣が割れる。周囲は騒然としているが、どうせ間もなく家康を回収しに彼の世話役である忠勝がやって来ることだろう。そう踏んで、三成達はそれを放置してその場を立ち去ったのだった。



「家康め……。去れ往ね死ね、呪われろ!」

恐ろし過ぎるオーラを放つ三成に怯むことも無く、幸村はにっこりと笑って買って来たチョコバナナを彼女に差し出した。

「これでも召し上がって、機嫌を直して下され。」

幸村だって勿論、大好きな恋人が他の男に追い回されているのを見るのは面白くない。だが、三成が怖い顔をしているのはもっと嫌で、彼は三成の側では常に笑顔を心がけていた。
それに、付き合い始めたばかりの頃、「貴様の笑った顔が好きだ」(正しくは「嫌いでは無い」)と言われたのを、忘れるはずも無かったし。

「これは…初めて食べる……。」

チョコレートでコーティングされた上に、ピンクや黄色、緑色といったカラフルなチョコスプレーに彩られたバナナをまじまじと見詰める三成。その瞳は完璧に、珍しい何かを見るそれであった。

「うまいでござるよ。」

幸村に促され、三成は恐る恐ると言った体で小さな口でバナナにかじりついた。

「………。」

それをよく噛んでゆっくりと飲み込むと、三成は無言でチョコバナナをずいっと幸村の口元に寄せた。

「お口に合いませぬか?」

幸村が眉を下げたが三成はそれを否定する。

「うまい。…だから、これを一人で食べてしまうのが勿体無くてな。」

途端幸村は破顔し、目の前のチョコバナナを食べた。
己の歯型が鮮明に付いたそれを、三成は気にも留めずまたかじる。先ほどより一口分だけ短くなったバナナを差し出されて、自分も再びかじりついた。交互に食べ合うだなんて顔から火が出そうだったが、幸村はやはりそれを、世界一おいしいチョコバナナだと思った。




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