君と、夏祭り


今日は、町の外れにある小さな神社で夏祭りがある。
普段は閑散としたその神社も、この日ばかりは周辺の通りも巻き込んで大にぎわいとなる。神社の敷地内は勿論、付近の道路を少しばかり通行止めにし確保した場所などにも、様々な屋台が並んでいた。出店の売り子の呼び込みや人々の楽しそうな笑い声でそこは活気に満ち溢れている。明るい祭り囃子が聞こえて来る、境内へと続く少し急な石段には、色とりどりの提灯が飾り付けてあり目にも鮮やかだった。
幼い子どもでなくとも心がうきうきするような、そんな雰囲気にこの一帯は包まれているのだった。



から、ころ、から、ころ。
一人の少年が、赤い鼻緒の下駄を鳴らしながら早足でやって来た。待ち合わせをしている人物を見付けるや否や、彼は着ている浴衣が着崩れるのも構わず人混みを掻き分けて走り出した。

「三成殿!!」

足元に向かうにつれ色が濃くなる、グレーのグラデーションの浴衣の袖を振り回し、少年は大きく手を振りながら狛犬の石像にもたれている少女に近付いて行った。

「遅くなってしまって申し訳ありませぬ!浴衣は歩きにくくて…。」

待たせてしまって申し訳無い、と、幸村は三成に深く頭を下げて謝った。

「私も今来たところだ、気にするな。浴衣の着付けに手間取ってしまってな。」

そう言って幸村に顔を上げさせた三成は、眉をハの字に寄せて恥ずかしそうに自分の浴衣の裾を引っ張った。そんな彼女を見て、幸村の頬は一気に熱を持つ。

「み、三成殿、なななな何て可憐な……っ!!」

三成は、青味がかった深い紫色の生地に、淡い色使いで大輪の牡丹の花が描かれた品の良い浴衣を纏い、白色の帯をしていた。桃色で柔らかそうな素材の飾り帯も愛らしく、袷や裾からちらりと覗く白いレースがちょっぴりセクシーで、幸村は三成を見詰めながらごくりと唾を飲み込んだ。全体的に見て決して派手ではない装いだが、頭にちょこんと載せられた藤の花を模した髪飾りも、足元の黒い下駄とそれとセットと思われる竹籠付きの巾着袋まで全てが三成に良く似合い、彼女の美しさをより際立たせていた。

「真田、からかうな!」
「からかってなど!本当に良く似合っております!某、一瞬どちらの広告モデルの方かと…。三成殿はどんな服装をしていても美しゅうございますが、浴衣姿は一等素敵に見える。正に大和撫子でござる!」

幸村は手放しで三成を褒めた。その惜しみない賞賛の嵐に、今度は三成が顔を真っ赤にしたのだった。

「…ふん、貴様もお世辞の一つも言えるようになったか。」

そうして彼女は、行くぞ、とだけ無愛想に言い放ち、照れ隠しに先を歩いて行ってしまったのだった。後ろ姿も非常に綺麗だったが、見惚れている訳にもいかず幸村は慌てて三成を追い掛けた。



混み合う参道の中で、幸村は何度も三成の手を握ろうとした。しかし、あと一歩がどうしても踏み出せぬ。そうこうしている間に、三成はかき氷を購入してしまった。両手が塞がってしまえば、手など繋げるはずが無い。しかし、

「真田。」

三成は、赤色のシロップがかかったてっぺんを少しだけ崩して食べ、ほぼ手付かずと言って良いそれを幸村に寄越した。

「こんなに食えん。やる。」
「え、ぇえ!?
か、かかかかかかか…っ!!」

幸村は目を見開いて渡されたプラスチック製のスプーンを凝視し、純情過ぎることを考えていた。

(間接キッス!!)

その様子を訝しんだ三成に「イチゴ味は嫌いか?」と尋ねられ、幸村は激しく首を振り、震える手でかき氷を完食したのであった。それは、甘酸っぱくて世界一おいしい氷イチゴだった。

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