秘密の避暑地B


「一緒に鍛練しようと思ったんだけどよぉ、清正がどこにもいなかったから……」

「ここまで探しに来た訳か」

「そうそう」

「正則、」

「あー……」

「……このことは他言無用ってことで、頼む」

「わ、分かってんよ! ……けどよぉ? 清正……」

なんだってこの頭デッカチなんだよ。

そう言って正則は天を仰ぎ、額に手を宛てた。
彼に呼応するように清正も先の猛虎の影はどこへやら――困ったように笑い、愛しい恋人を見下ろす。

三成は静かに清正の膝上で眠っている。
重大な秘密が大変な人物に露見してしまったことにも気付かずに。
幸せそうにすやすやと寝入っている。

「ったくよぉ……だいたい清正も水くせぇよなぁ」

「黙ってて悪かった……。だが、こいつは繊細な奴だから……」

「ど、こ、が?」

「そんな力いっぱい言うなよ」

苦笑して、清正は三成の髪に触れる。
木漏れ日を僅かに受ける鳶色の髪は、清正の節くれだった指にさらさらと馴染み、心地好い。

「こいつはこれでいてなかなか……可愛い奴なんだ」

「清正ぁ……」

「なんだよ?」

「化かされてんぞ」

「かもしれん」

吹き出す二人の下。三成が身じろぐ。

「ん……っ、」


“おいコラ馬鹿。起きちまったじゃねえか!”

“俺のせいかよ!”

“お前の声がデカイからだっ!”

“ええっ!?”


「き、ょまさ……」

ぽそり、と呟かれた言葉に二人は目を見張る。

三成は軽く寝返りを打ち、そしてまた夢の世界へと戻っていく。
紅い唇が少しだけ笑みを形作る。良い夢でも見ているのだろうか。


「……きよまさぁあん、だってさ」

「言ってねぇ!」

「ははっ!」

「とりあえず正則、」

「は……?」

「帰れ」


ぎろり、と再び眼光鋭く。
清正は虎の本性を剥き出しに正則を威嚇する。


「お前が居ると三成が安眠できん」

「わーったよ……お邪魔虫は退散するってーの」

そこで深く頷く清正に、正則は滅多に吐かない溜め息を零した。




秘密の木陰を後に、正則は少し離れたところで振り向く。

清正が屈み込み、三成に顔を寄せているところだった。

「ありゃあ……重症だな」


正則の頭の中で、三成が漏らした“きよまさ”という言葉が反響する。

「なんだって清正なんだかなぁ………………アレ?」


胸がちくり、と痛いのは。
何かを刺されるこの痒みは。

清正を三成に取られたからなのか。

三成を清正に取られたからなのか。


「……俺も化かされてみっかな」


鳴き始めた蝉の声は複雑な心の内を慰めてくれるようで。
正則はこの声をずっと聞いていたいと思ってしまった。



<了>



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