Sister princess!A


 元親、三成、幸村の三人で、変な空気の中妙なお茶会が始まった。まず最初に口を開いたのは三成だった。
「真田、紹介が遅れたがコレは兄の元親だ。」
「お兄ちゃんに向かってコレとはなんだコレとは!」
「まぁ見たまま…暴走族の総長だ。」
「『元・総長』な。今は解散した。」
 幸村は三成が淹れてくれたミルクたっぷりの紅茶を飲みながら、「やっぱり…」と思った。元親の放つオーラは半端ではない。
「はぁ、頼もしい兄上でござるなぁ。」
「手前ェに『兄』呼ばわりされる筋合いはねぇ!!」
「えぇい話が進まん!」
 いちいち幸村に噛み付く元親の口を、三成はシュークリームで塞いでやった。
「モトチカ!イケメン!ミツナリ!カワイイ!チョウカワイイ!!」
「喧しいぞ鳥!」
 蛇足になるがこのインコに言葉を教えたのは元親である。

 それから幸村は、お茶をご馳走になってすぐに長曽我部家を出た(正しくは、元親に追い出された)。玄関の前まで見送りに来た三成が、彼にしきりに謝っていた。
「済まなかったな、私の愚兄が…。」
「いえいえ。良き兄上ではございませぬか。三成殿を、本当に大切にしていらっしゃる。」
 幸村はにっこりと笑って見せたが、三成は下を向いてしまった。
「そ、それと、その…先日の返事だが……。」
「それならば、いつでも構いませぬゆえ。ゆっくりと考えてから、返事が頂きたい。」
 俯いた三成を見詰める幸村の瞳は、溶かしたブラウンシュガーのように甘かった。
「三成殿、今日はご招待ありがとうございました。それでは、また明日学校で。」
「…ああ、またな。」
 手を振る幸村に、三成はふんわりとほほ笑んだ。
 それを庭の陰から見ていた元親は、驚きを隠せないのであった。
(あいつ、家族以外にもああやって笑ったりするんだな…。)



 「なぁ三成、お前あいつに告白されたのか。」
 先ほど使用した食器を洗っている三成の背に、元親が話しかけた。
「覗き見とは趣味が悪いな。」
「付き合うのか?」
 兄のいつにない真剣な声色に、三成は洗い物をする手を止めて彼を振り返った。
「……貴様は、奴をどう思った?」
 元親を見上げる三成も、真剣な眼差しだ。
「私は、貴様が認めた相手以外とは付き合わない。貴様の絶対が私であるように、私の絶対は貴様だ。それは生涯揺るがない。」
「三成……。」
 妹の真摯な気持ちを、元親は初めて聞いた気がした。三成の曇りのない瞳に、自分が映っている。
(『認めた相手』、か。俺に会わせたってことは、『認めて欲しい相手』なんだろうな。まったく素直じゃねぇ…。)
 元親は一つ息を吐いてから、がしがしと頭を掻いた。彼女を手放すことはまだできないが、部屋の扉くらいは開けてやってもいいだろうか。
「お前が見込んだ男だ。兄ちゃんがどーのこーの言うより、間違いないんじゃねぇのか?」
 元親は笑顔でそう言うと、三成の髪をくしゃくしゃっと撫でた。
「元親っ!」
 自分の胸に飛び込んで来た愛する妹を、元親はぎゅっと抱き締めたのであった。



 その後の、とある土曜日のことである。
 晴れてお付き合いをすることになった三成と幸村は、何回目かのデートで県内随一の水族館を訪れていた。仲良く手を繋いで、ラッコを眺めている二人。そして、そんな彼らを眺めている不審な男。この男の正体は言うまでもなく元親で、三成達のことを公認したものの、依然彼の監視の目は厳しいままだった。今日も今日とて、こっそり二人の後をつけて来たのであった。
「元親!貴様また隠れてついて来たのだな!?」
 …そして、呆気なく見付かるのも毎度のことだった。
「俺ぁお前が心配で…。つーか三成!スカート短過ぎんじゃねぇか!?そんな男を誘惑するようなワンピースいつ買ったんだよ!兄ちゃん知らねぇぞ!?」
「うるさい!目障りだ!そして恥ずかしい!!今すぐ失せろっ!!」
 元親の姿を確認するなり、三成はヒールローファーの踵をカツカツ鳴らして詰め寄って来た。
「まぁまぁ三成殿、この際でござる。良かったら兄上もご一緒に、三人で参りましょうぞ。」
 まるで毛を逆立てて敵を威嚇する猫のような三成を、幸村が宥めた。しかし、
「だぁれが手前ェの『兄上』だ小僧っ!!」
「うわっ!」
 すかさず元親に殴られてしまった。
「―!?
幸村を手を上げるとは!私は貴様を許さないっ!!」
 ぎゃんぎゃん騒ぎ立てる銀髪の兄妹は、巨大なジンベイザメよりも珍しいベルーガよりも、愛らしいアシカのショーよりも……人々に注目されてしまったのだった。
「三成殿と兄上は、本当に仲がよろしいですな!」
 幸村は、彼女とその兄が仲良く喧嘩しているのを、いつも笑顔で見守っているのであった(一番の大物は、彼で間違いないだろう)。



 「元親なんて大っ嫌いだ!!」
「兄ちゃんが悪かったぁああ!!!」
(おお!必殺の『お兄ちゃんなんて大っ嫌い!』が決まったでござる。本日の軍配は三成殿に上がりましたな。)




    おしまい☆




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