Sister princess!


 元親には、目に入れても鼻に入れても、爪の間にねじ込んだって痛くないほど可愛がっている妹・三成がいた。彼ら兄妹の両親は仕事が忙しく、二人が幼い頃から家を空けがちだった。数年前からは父親母親揃って海外赴任となり、実質、広い一軒家で元親達は二人暮らしをしているのであった。
 親があまり家にいないのを不憫に思い、元親は三成が寂しくないよう彼女の世話を一生懸命に焼いた。そして「三成を守れるのは俺しかいねぇ!」と兄としての使命に燃え、いつしか『過保護過ぎる兄』になっていた。かような元親に溺愛され蝶よ花よと育てられた三成は、超絶美少女に成長したのだった。兄と同じ光り輝くプラチナの髪に、透き通るほど白く綺麗な肌。目元に影を落とすほど長い睫毛に、それに縁取られた月光色の瞳。胸の方はやや控えめなものの、細くくびれたウエストに美しいラインを描く長い足。彼女はまるでモデルのような容姿をしていた。そんな妹に悪い虫が付かないかと元親は常に目を光らせていたが、どこをどう間違ったのか三成は性格がアレで、男どころか同性の友人まであまりいなかったのだった。
 交友関係に若干の不安はあれど、三成に変な男が寄り付かないのは喜ばしいことである。そうして安心し切っていた元親に、正に青天の霹靂と言える出来事が起こった。


 日曜の昼下がり、三成が家に男を連れて来たのである。


 その男…いや、彼は三成と同級生らしいので『少年』と形容した方が相応しいか。連れて来られた少年は、長曽我部家の客間(和室)に通された。そして、テーブルを挟んで彼の向かいに元親が座った。
「某、真田幸村と申「ぁあ゛?」
「三成殿とは同じクラスで「ぁあ゛!?」
 幸村と名乗った少年は、元親に阻まれ自己紹介もままならない。従順な日本犬を彷彿とさせる幸村は、元親に睨み付けられてぴるぴると震えていた。眼帯で左目を覆い、瞳が一つしか見えぬというのに凄まじい眼力である。
「やめろ元親、真田が怯えている。」
 元親の隣りに行儀良く正座した三成が、柄の悪い兄を制した。ついでに三成は、兄を『お兄ちゃんと呼ぶ』正統派の妹ではなく、『名前で呼び捨てにする』小生意気タイプの妹であった。
「こら三成、『お兄ちゃん』って呼べっていつも言ってんだろ。」
「拒否する。」
「…即答かよ。まぁ今はいい。それより、冷蔵庫にシュークリームが入ってっから持って来てくれるか?」
 元親は幸村と二人きりになるため、それとなく三成を部屋から出そうとした。
「コーヒーでも淹れて、一緒にお出ししてやんな。俺の分もな。」
「真田はコーヒーが飲めないから紅茶にする。」
 「お兄ちゃんの意見よりこいつ優先かよ!」と顔に書いてあったが、三成はそんな元親を無視して静かに襖を開けて出て行った。

 「…で、あんちゃん。アンタ一体、俺の三成の何なんだ?」
 三成がいなくなるや否や、元親は再び幸村を睨み付けた。その背後に鬼が見える気がした。しかし『俺の三成』とは何ぞや。
「あ、あの、クラスメイトで、友人で……。」
「嘘吐くんじゃねーよ手前ェよぉ!友人とか言って、俺の可愛い三成を狙ってんだろ!?」
 『俺の可愛い三成』とは何ぞや。
「いや、そんな…っ!」
「三成の○○○に×××ブチ込んで激しく☆☆☆した上△△△してぇとか思ってんだろ!?」
「は…ははははは…っ!破廉恥でござらぁああああ!!!
「元親、真田!うるさいっ!近所迷惑だ!!」
 …三成がキッチンから二人を怒鳴りつけたが、その声が一番大きく、うるさかった。
「モトチカ!モトチカ!ミツナリ!ミツナリ!」
 ついでにペットのインコまで騒ぎ出して、長曽我部家はあっと言う間に物凄い騒音被害の発生源となった。皆、揃いも揃って声がデカい。


 隣りに住む前田さんちの奥さんは、
「今日も長曽我部さんのお宅は賑やかでございますれば。」
 と、のほほんと洗濯物を取り込んでいたのだった。




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