縋りたい体温A


 「…いい…。布団は、いらぬ……。」
 三成は赤い顔を掛け布団から半分だけ出して、潤んだ瞳で清正を見詰めた。熱があるせいだと分かってはいるが、その三成のあまりの愛らしさに清正まで顔が真っ赤になった。
「じゃあ、何か他に欲しいものはあるか?」
 清正は、この病人をとことん甘やかしてやろうと決めたらしい。
「寒いんだろ?行火か火鉢か、出して来るか?」
「いらぬ…。ここにいろ…。」
「ああ、分かった。」
 高圧的な物言いではあるが、可愛い三成のお願いに清正は表情を緩ませた。そしてゆっくりと、三成の布団をめくって彼の横へと潜り込んだ。
「お、おい…っ!?」
「いいから。」
 清正は何か言いたげな三成を制して、高い枕を取っ払いその代わりに自分の腕を置いた。
「こっちの方が温かいだろ。」
 言うが早いか、清正は三成の頭を腕の上へと招待した。三成は存外、素直に彼の腕へと収まった。間近に感じる三成の体温はいつになく熱く、もう抵抗をする体力も悪態を吐く気力も残っていないらしい。
「……仕方ない、湯たんぽ代わりに抱いておいてやる…。」
 それだけ言うと、三成は清正の着物を掴んで目を閉じた。程なくして聞こえて来た寝息に、清正は安堵して愛しい恋人の額に口付けを落とした。三成の規則正しい寝息と外から聞こえる静かな雨音に、清正の瞼も徐々に重くなっていった。



 己を包む心地良い体温に、一体どれくらいそうしていただろう。

 三成が目を覚ますと、清正のどアップが目の前にあった。三成はぎょっとしたが、
「ん、三成……。」
 蕩けそうな笑みを浮かべて自分の名を呼ぶ清正に、自然と口許が弧を描くのが分かった。今が何刻なのかは分からなかったが、三成は目の前の男にすり寄り、もう一眠りしようと再び瞼を閉じた。

 「あら〜、仲良しさんだねぇ。」
「三成が熱を出したっちゅうんで様子を見に来たが……。」
「なんか、邪魔者みてぇっすね!」
「我々が出る幕はなさそうですねぇ。」
 様子を見に来たねね、秀吉、正則、左近が襖から顔を覗かせたが、仲良く寄り添う二人を見て四人は笑みを浮かべながらすぐに帰って行った。



 清正の腕枕の寝心地は最高だったらしく翌日三成の熱はすっかり下がっていた。腕が痺れただろうに、彼は一晩中枕役をやってのけたのだ(翌朝、三成が清正に礼を言ったらまた熱を計られたので一発平手打ちをお見舞いしていた)。
 人間暖房器具にくっついて眠るのは心地良かったので、三成はこれから夏を迎えるのを密かに疎ましく思った。そして、多少暑苦しくても彼との接触を少しならば許可しても良いか、と考えたのだった。





 おまけ。
「へっくしょん!」
「んー?清正、頭デッカチの風邪がうつったのかぁ?今度は俺が腕枕してやんぜ?」
「いらねぇ。つーか何で知ってんだ正則!」
 清正と三成は、正則や秀吉達にしばらくからかわれたとか。




   おしまい!




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