flirtation,flipping!A


 三成は苦しそうに、はぁ、はぁ、と激しく呼吸を繰り返している。過呼吸を起こしているのだ。
「三成殿!!?」
 その場に崩れ落ちてしまった三成を、幸村が駆け寄り抱え起こした。
「三成!!」
 家康も血相を変えて彼の元へと走り出したが、
「この方に近付くなっ!!!」
 幸村がそう叫び、家康は足を止めた。いや、その場に縫い付けられてしまったかのように動けなくなってしまったのだ。幸村の放つ猛虎の覇気に圧倒されたのか、辺りの人間も一様に凍り付いている。
 過呼吸の対処法は、紙か布でできた袋で鼻や口を覆い、一度吐き出した二酸化炭素を再び吸わせてやること。しかし、今はそんな袋など持ち合わせてはいない。幸村は何のためらいもなく、三成の唇を自分のそれで塞いだ。そして自らの呼気をゆっくりと三成に送り込む。彼の背中を擦ったり安心させるように優しく抱き締めたりしながら、何度もそれを繰り返す。すると、荒かった三成の呼吸が次第に落ち着いていった。
「…は、ぁ……。」
 二人の唇が離れた瞬間、つ、と唾液が糸を引いた。呼吸は安定し顔色も戻りつつあるが、ぐったりとしままの三成を幸村が強く抱き締める。
「……失せよ。貴殿は三成殿にとって害にしかならぬ。」
 そして家康に対し、怒気を含んだ低い声で言い放った。
「さ、真田……。」
「失せよ!!!」
 空気がビリビリと震えるようなその声に、家康はこの場を立ち去るしかなかった。このドラマのような出来事を、ただ見ていただけの町民達だったが、我に返ると具合の悪そうな三成に手ぬぐいや水などを次々に差し出した。
「三成殿、もう大丈夫でござる。」
「…真田……すまない、見苦しいところを…。」
 三成は震える手で縋るように幸村の着物を握った。
「何を謝られますか。心配しないで下され、某がずっとお側におります。さぁ、帰ってゆっくり休みましょう。」
 先ほどの威圧感や闘気はどこへやら、幸村は優しくほほ笑んでから三成を抱き上げた。三成は幸村の逞しい胸板に顔を寄せ彼の首に腕を回した。そんな彼らの後ろ姿を見て、町民達はほぅ、と感嘆の息を漏らしたのだった。



 翌日、「赤い衣の侍が美青年を救った」という話題が大坂の町を賑わした。「あの光景はまるで絵巻を見ているようだった」と目撃者の話が評判を呼び、「例のお侍様は何者なんだ?」とか、「その銀髪のお方が三成様とは真か?」などと興味津津の様子の町民達が大坂城の前に押しかけた。だが当人達は
「あれは何の集会でございますか?」
「知らん。」
 と平然としている。この騒ぎの原因が自分達であることも、二人の後ろで佐助と吉継が溜め息を吐いている理由も、「しばらくは外出禁止」と言われた理由も、彼らはまったく理解していないだろう。そして
「真田、寝癖が付いているぞ。」
「えぇ!?どこでござるか?」
「後ろだ。来い、直してやる。身嗜みも作法の一つと知れ。」
「わーいありがとうございます三成殿!」
 ……理解しようともせず、幸村と三成はいちゃつき始めた。




 見事に失恋した家康が奥州の独眼竜に泣き付いた(…のだが政宗は家康の相手を小十郎に丸投げした)ことと、話を聞いて政宗が「あいつら相手にしたくねぇ……」と心底嫌そうな顔をしたのはまた別の話である。




    どっ完!




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