保健室の小悪魔A


 楽観的とも取れる兼続の発言に、幸村は苛立ちを募らせる。
「それで済む生徒も確かに多いでしょう。けど、あの者は違います!先ほどの、伊達政宗は……あなたに本気です!」
「それは、何となく分かっているよ。あいつが向けてくれる好意は、他の生徒とは違うから。」
「ならば何故!」
 やや感情的になり始めた幸村を尻目に、兼続の調子は変わらない。
「五年後、奴がお前よりいい男になっていたら、政宗のものになるのも悪くは無いかと思って。」
 恋人の言葉に、幸村は二の句が次げず固まってしまう。ぬけぬけと、彼女は何を言ったのか。
「まぁ、お前が五年以内に、“入籍してもいいかな?”とか“子どもを生んでもいいかな?”くらいに私が思えるような、有り得んくらいのいい男になればいいだけの話だろう?」
 そう言って幸村の胸板を人差し指でつん、とつつき、ふふっと妖艶な笑みを浮かべる兼続に幸村は目眩がしそうになった。ふわっと香るパフュームの良い香りに、頭がくらくらする。
「さ、もう戻らないと授業に間に合わないぞ?ほら。」
 そのまま軽く頬を抓られ、惚けていた幸村は我に返った。
「いたっ!」
「真田先生早く。」
「あ、あの、兼続殿…。二人きりなんですから、こんなときくらいは名前で……。」
「職場は職場だ。」
 室内履きの踵の低いパンプスを軽やかに鳴らして、兼続はその場を立ち去ろうとする。美しい黒髪を揺らして歩くその後ろ姿を、幸村は慌てて追いかけた。




 「かねつ…いや、直江先生、さっきの話だと私とはまだ結婚する気が無いってことですか?」
「うーん…まだ年収がなぁ……。」
「うわーんリアルな返答がすごく嫌ですー!」






 恋人は、保健室に棲む小悪魔!
(きっと一生敵わない。)



 (早く私をお前のものにしてみせろ、幸村。)




    おしまい☆

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