保健室の小悪魔


 とある高校で養護教諭を勤める直江兼続は、厳しくも優しい性格で男女を問わず生徒達から慕われていた。彼女は艶やかな黒髪を持ち色白の日本美人で、そしてやたらにグラマラス…不義な体つきだった。それに加えて白衣が異様に似合ってしまうと言う外見的要因も相俟ってか、思春期ド真ん中の男子生徒からは絶大な人気を誇っていた。いわゆる、ありがちな「ちょいエロ保健医」ってやつである。

 まぁそんなだから兼続は生徒達から非常にモテる。今も裏庭に呼び出され、告白を受けている真っ最中だった。

 「お前の気持ちは有り難い。だが、私は教師だ。生徒と個人的にお付き合いすることはできないよ。」
「儂は本気だっ!」
 相手は右目に眼帯をした、高校生にしては少々小柄な男子生徒。彼の一つの瞳は、真っ直ぐに兼続を映していた。
「……そうか…。
じゃあ、あと五年。あと五年経って、お前が卒業して今より大人になっても、まだ私を好きだと言うのなら…また会いに来い。」
「……っ、…き、貴様がそこまで言うのならば仕方が無い!
五年後!いい男になってさらいに来るからな!覚悟しておけ馬鹿め!!」
「ああ、楽しみにしているよ、政宗。」
 そう言って兼続は、ふわりと笑ってその少年の頭を撫でた。彼はいつも高圧的な態度を取っているが、根は素直で可愛らしいところもあるので密かに気に入っていたのであった。
「子ども扱いするで無いわバ兼続っ!!」
 政宗と呼ばれた少年は、顔を真っ赤にしながら校舎の方へと走って行った。その背中を見送りつつ、兼続はたわわな胸を反らしながら仁王立ちで「はっはっはっ、なんと可愛い!」と笑った。


 「兼続殿。」
 上機嫌に笑う彼女を突如背後から、ぎゅっと抱きすくめる腕が二本。
「…真田先生。」
 その腕の正体は、兼続の同僚(年齢的には後輩)の体育担当教諭・真田幸村。彼は、ジャージにTシャツが似合ういかにもな好青年だった。
「今のは一年生の伊達君ですか?高校生の純情を弄ぶなんて意地悪、やめて下さいよ。」
「ふぅん?そちらこそ覗き見とは趣味が悪いじゃないか。」
 兼続は幸村の腕の拘束から逃れると、彼を軽く睨み付けた。
「………モテる恋人を持つ、私の気持ちも分かって下さい。」
 兼続と幸村は、職員や生徒など、周囲に内緒で付き合っている恋人同士であった(実は同棲までしていたりする)。
「真田先生だって、人気者じゃないか。」
「私はあんな断り方はしません!」
 くすくす笑う兼続に対して、幸村は真面目な表情で言う。
「あんな、気を持たせるような言い方……。」
「生徒達から見て、今は憧れの女性かも知れないが…五年も経ってみろ。もう年増の女にしか見えないよ。それでなくたって、学校を出て広い世界を見ればきっと新しい恋を見付けるさ。」





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