彼女の困惑B


 「私は貴女が好きです!以前から再三申し上げていたつもりでしたが、伝わってはおりませんでしたか!?貴女の他に姫など……欲しくはありません!!」
「お前のためだ幸村、分かってくれ…。」
 語気を強める幸村に、兼続は怯まない。そんな強さにも幸村は惹かれたのであったが、今この状態ではその芯が疎ましく思えた。
「私のことなど……んんっ…!」
 聞きたくない言葉を紡ごうとする兼続の唇を、幸村は己のそれで塞いだ。勢いに任せて、噛み付くように口付ける。腕の中に拘束した女が暴れるが、男が離す筈は無い。それどころか、男の手は無遠慮に女の豊かな体を這って回る。

 「…っ、ゆき、むら……っ…。」
 ようやく唇を離し解放してやると、はふはふと呼吸をする兼続。着衣は乱れ、彼女のふっくらとした唇がどちらのとも分からぬ唾液でてらてらと光っていて、妙に艶めかしかった。幸村はごくりと喉を鳴らすが、ここでこれ以上彼女を傷付けるのは本意ではない。優しく兼続を胸へと抱き締めると、されるがままとなった兼続が、恐る恐ると言った風に口を開く。

 「幸村……。年若い少年が年上の女性に憧れると云うのはよくある話だ。それは一種の幻だろうと思う。私は、お前がその夢から覚めたらと思うと…怖くて仕方ないのだよ……。」
「私も、こんなに子供では以前の旦那様には到底敵わないだろうと、まだ貴女に釣り合うような立派な武士では無いと常々考えております…。ですが、それでも、それでも私は貴女と一緒になりたい。愛しております、心から。
兼続殿、どうか私の想いを疑わないで頂きたい……。」




 「…幸村、ゆきむらぁ…っ!」
 兼続は震える手で幸村に縋り、とうとう泣き出してしまった。
「幸村、お前だけは私を置いて逝ってくれるな。もう…っ、あんな思いはたくさんだ……!!」
「兼続殿……。
約束します、貴女を決して一人にはしません。三途の川をも、貴女と共に……。」




 まだ日も暮れていないのに、だとか、此処が褥などある筈の無い上等な客間であるとか、家人がいつ近くを通るかも分からぬのに、などとは二人は少しも気にしていなかった。否、気にならなかったのだ。
 まるでそれしか知らぬかのようにお互いの名を呼び、激しく愛し合い、求め合った。






 後日、因縁の深い上杉と武田と言う障害を越えて、見事結ばれた二人。花嫁は優しくほほ笑む花婿の隣りで、幸せそうに笑っていた。




    ―終―

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