彼女の困惑


 兼続はとある悩みに頭を抱えていた。彼女の6つ年下の恋人、幸村のことである。



 幸村との出会いは数年前。最愛の夫に先立たれ、兼続が失意のどん底にいるときだった。当時幸村17歳、兼続23歳。必死に自分を元気づけようとしてくれる幸村の存在に、彼女の心はどれだけ救われただろうか。そして幸村の自分へと向けられた気持ちが、ただの親切心ではなく愛情であると気付いたときには、もう既に彼の手を離せなくなっていた。



 そうして清く正しく、順当に愛を育んでいった二人は、お互いの師や主にも認められて婚約者になったのだった。

 ……が、祝言の日取りが迫って来た今、冒頭の通り兼続は酷く悩んでいた。
 「この婚約を破棄してしまいたい。」
 これが、現在の彼女の本音であった。





 吹き付ける風が冷たい夕暮れ、兼続は縁側で空を見ていた。亡き夫のことを考えながら。
「兼続、何をしているのです。そんなところでぼぅっとしていたら、風邪を引きますよ?」
 そんな彼女の背中に声をかけたのは綾御前であった。
「綾御前様…っ!」
 兼続は慌てて頭を垂れるが、綾御前はすぐに顔を上げるよう指示した。
 そして、
「何か考え事をしているようですね。それも重大な。私に話せとは言いません。ですが、間もなく貴女の伴侶となる方に、何か話すことがあるのではないですか?」
 決して長くは無い言葉の中で、ゆるりと兼続を諭した。如何に上杉家の筆頭家老と言えど、彼女から見れば兼続などまだまだ小娘(綾御前も、相当に若く美しい見目をしているが)、思い悩んでいることなどお見通しなのであった。
「……綾御前様には適いませぬな。
この兼続、先のお言葉に勇気づけられました。すぐに幸村に会いに行こうと思います!」
 兼続の瞳に、少し覇気が戻ったようだった。その様子に、綾御前も満足そうにほほ笑んだ。



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