きらきら相合い傘A


 「おお佐助!ここにいたか!傘を持って行かなかっただろう、迎えに来たぞ!!」
「ありがと〜旦那!助かったよ〜!」
 迎えに来てくれたという幸村に笑顔で応える佐助。しかし、幸村が持っている傘は今彼がさしている一本だけであった。
「あれ?俺の傘は?」
 佐助は傘を受け取って帰ろうとしたが、それは叶わないようだ。

 「…………忘れた……。」
 ばつが悪そうに、小さな声で幸村が言う。
「え、ええ〜!?意味無いじゃん!」
「佐助が雨に濡れたら一大事と、そればかり考えて城を飛び出して来たのですっかり失念していた…。」
「もぉ、来てくれたのは嬉しいけど…しっかりして欲しいね……。」
 がっくりと肩を落とす佐助。
「う、うるさい!これに一緒に入ればいいだろう!」
 幸村は自分がさしている傘を差し出す。
「ま、それしかないよね…。早く帰ろ。」
 佐助は幸村の傘に入り、雨脚の衰えない中二人並んで歩き出した。




 幸村は右肩を濡らし、佐助は左肩を濡らしながら歩いて行く。幸村の方が少し余計に、傘からはみ出している。それが彼の自分への気遣いだと佐助はすぐに気が付いた。
「旦那、濡れてるよ。もっとくっついて歩いたら…濡れない……。」
 自分で提案したのだが、少々照れくさくなって佐助は下を向いてしまった。その様子が愛しくて、そうだな、と幸村は佐助の肩を抱いた。



 二人ぴったりとくっついて歩いても、少し体が濡れてしまう。しかしそれでも佐助は構わないと思っていた。今年の残暑は例年になく厳しく、肌を濡らす雨は心地良いほどだった。

 それに、どきどきしている熱が隣りの幸村に伝わってしまったら恥ずかしいから。




 「見ろ佐助、虹だ!」
 幸村が指差す先には大きなアーチを描いた虹が輝いていた。降り注ぐ雨は弱まり、薄日が差して来た。二人で見た景色は、どこもかしこもきらきらと光っていた。


 「少し、遠回りして帰ろっか。」
「ああ。」
 幸村は静かに傘を閉じた。



    ―終―


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