きらきら相合い傘


 「参ったな……。」

 佐助は、困ったように空を見上げた。重たく垂れ籠めた雲から、雨粒が激しく零れ落ちて地面を濡らしていく。ちょっとした買い物をしに城下に出たのだが、運悪く夕立に遭ってしまった。走って戻ろうにも、この雨脚では帰り着く頃には下着までびしょ濡れだろう。城を出るときは晴れていたのに…と無駄とは分かっていたが佐助は雨雲を睨み付けた。

 (仕方ない、このまま小降りになるまで待ちますかね、っと。)
 突然の夕立に慌てる町民達を見詰めながら、佐助は店の軒下で雨宿りをすることに決めた。雨は強く降りつけているものの風がないのが幸いであったか、こうしてじっとしている分には体が濡れることはなかった。



 (洗濯物、誰かしまってくれたかな〜…。旦那の一張羅が干してあるのに……。)
 ぼんやりと人通りも疎らな町を眺めていると、どこからか自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
「?」
 振り返ったり辺りを見渡したりしても見知った顔がなかったので、空耳かと再び視線を町中に戻した。
「さあぁすうぅけぇええ!!!」
 ……いや、空耳ではなかった。良く知った人物の声が、遠くから聞こえてきた。
「旦那!?」
 声のする方を見ると、赤い衣を纏った人影がこちらに向かって驀進して来るではないか。ばっしゃああ!と豪快に泥水の飛沫を上げながら激走しているのは、武田の若虎、真田幸村であった。
「佐助ぇええ、どこにいるぅううぅ!!」
 騒音+泥水のまき散らしに、大層近所迷惑になっているのだが当の本人は気付いていない模様。
「旦那〜!!」
 佐助は軒下から少し身を乗り出して幸村に手を振る。佐助の姿を確認した幸村は、更に加速してこちらに走って来た。何かもう、彼が通り過ぎた後の水飛沫は、豪雨の中10tダンプが高速で道路を走り抜けて行った後くらいの勢いであった。不運にも横を歩いていた商人は、頭から水を被ってしまっていた。気の毒に…。




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