hot chocolateB


清正はそのまま、石田家にお邪魔することになった。リビングに通されると、いつもいるはずの三成の母親がいないことに気付いた。この時間は大抵、あのご夫人はサスペンスドラマの再放送を観ているはずなのだが。

「今日はおばさんは?」
「近所の奥方様達とカラオケパーティーらしい。帰りは夜だ。」
「ふーん…。」

彼女の父は仕事でいつも帰りが遅く、兄の正澄も今日は大学のサークル活動に参加するため明るい内には帰って来れないらしい。

…つまり、夜まで二人きり。

それを意識したら、清正は急にドキドキしてきた。そこへ、制服から白いニットワンピに着替えた三成がやって来た。手に、マグカップを一つ持って。

「…これ、俺からのバレンタインプレゼントだ。」

差し出されたカップの中身は温かいココアだった。浮かんでいるクリームは、いびつなハート型で。

「ホットチョコって、言うだろう?」

そう言って三成はそっぽを向いてしまったが、頬が赤く染まっていた。その横顔が可愛くて可愛くて、清正は表情が緩むのを我慢できなかった。

「さんきゅ、嬉しい。」

その締まりが無くてみっともない顔を隠すために、清正はマグカップに口を付けた。

「うまい!」
「あ、当たり前だ!森永のミルクココアじゃないぞ、バンホーテンのピュアココアだ!鍋で練って、砂糖を加えて、牛乳で伸ばして作ったんだ!!」

手作りチョコには到底及ばぬ手間であったが、清正はその三成らしさを逆に愛しく思った。

「俺のために?」
「………。」

これ以上恥ずかしい思いをするのはごめんだと思った三成だったが、幸福感のあまりにふにゃふにゃになった清正を見たら憎まれ口など到底叩けず、素直に首を縦に振った。

「もっとこっち来いよ。一緒に飲もうぜ。ほんとにうまいから。」

清正の手招きに従い、三成は彼のすぐ隣へと移動した。そして口元にカップを寄せられたが、それをやんわりと断ったのだった。

「俺は味見程度でいい。」

ーちゅっ。

三成は可愛らしい音を立てて、清正の唇を奪った。
途端、清正は顔を真っ赤にして動揺したが、どうにかココアをこぼさないで済んだのであった。

「…少し、甘過ぎたか?」

悪戯っぽく笑う三成を、清正はぎゅっと抱き締めた。
『甘過ぎるのはお前達だ!』だとツッコミを入れる者はここにはおらず、二人はもう一度キスをした。




胸焼けしそうなほど甘くて、なんて幸せなバレンタイン!



ーおしまい☆ー




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