ふれる白雪、を溶かすほど。


目を覚ますには少しだけ早い明け方のこと、清正は布団の中で気持ち良く微睡みながら、隣で眠る恋人を胸に抱き寄せようと手探りで愛しい温もりを探した。だが、彼の手は空を切り綿の詰まった布団にぶつかるばかりで、彼の人を捕まえることは叶わなかった。

「…ん?」

しばらくそうやってもぞもぞとしていた清正だったが、ようやく恋人がいないことに気付き、覚醒したらしかった。

「三成…?」

清正が起き上がると、外気と布団の中との温度差に身を震えさせた。

「さっみ!」

それもそうだ、昨日は朝から雪が降っていた。何年ぶりかの大雪になり、昨夜も寒くて寒くて、二人で引っ付いて眠りに就いたのだ。特に三成はとても寒がりだから、清正の腕の中で丸くなっていた。その特別な寒がりが、まったくどこへと行ったのか。
待っていれば戻って来るに決まっているのだが、清正は適当な上着を羽織って三成を探すために襖を開けた。



一瞬たりも離れたくないと言うほど、子どもでは無い。だが清正は、三成の姿が見えないことが何よりも怖かった。

自分が手を離したせいで、永遠に彼を失うかも知れなかった。

そんな過去が、いつだって背後に張り付いているせいで。



踏みしめるほどに体温を奪われていく冷たい廊下をぺたりぺたりと歩いて、清正は庭を臨んだ。外は薄ぼんやりと明るく、まだ月が出ているのだろうと思った。
しかし、輝いていたのは一面に積もる雪。明け始めたばかりの空からわずかな太陽の光を受け、それを反射しての灯りだった。大きな庭木も庭石も、自慢の石灯籠も真っ白に染められて優しい輝きを放っている。

「すげぇ…。」

凍て付くような寒さを忘れて清正が吐いた感嘆の息は、見渡す限りの幻想的な風景の中に白く溶けた。




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